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「それじゃあ、そろそろ新幹線の時間だから──」
「ぴたちゃん」
 振り返るとよんちゃんは、手に持ったコーヒーカップをじっと見つめていた。早朝だというのに駅前にはスーツを着たサラリーマンが忙しなく行き交い、そのうねりに佇むよんちゃんはひどくちっぽけに見えた。声もか細く頼りない。
「引き止めようと、しないんだね。わざわざ広島まで来て、観光だけして帰ると思わなかった」
「うーん……」
 空を見上げると天高く飛行機雲が線を引いている。あの雲は、東京へと続いているのだろうか。
「最初は私も、アイドル部に戻ってほしくて説得に来たんだけど……。アイドル部でいちばん仲良かったのは、よんちゃんだから」
 だから、怖かった。
「私はこんなんだから友達が少なくって、だからせっかくできた友達と離れ離れになるのが嫌で嫌でたまらなくって──」
 でもね。
 私はよんちゃんに向き合う。すでに潤ませているその瞳を見て、相変わらず泣き虫だなぁと口元が緩む。
「昨日2人で遊んでみてわかった。きっと私たちは、たまちゃんとふーちゃんにならなくても、友達でいられるって。よんちゃんがもし、夜桜たまでいることに疲れたんだとしたら、私はもう止めないよ」
 寂しくないと言ったら嘘になるけれど。
 よんちゃんは俯いて、私の言葉を噛み締めるように、うん、うんと頷いている。
 たまちゃんの情熱は息苦しく、いつも空回っていた。もっと肩の力を抜けばいいのに。何度もそう思った。想いが先行した結果がこの現状だ。迷惑極まりないし、責められて然るべきだろう。
 だから、だからこそ、私はたまちゃんの味方でありたい。私はたま会長率いる生徒会書記で、よんちゃんの友達だから。
 なんだか私も泣きそうになってしまったので、「それじゃあ行くね」と別れの言葉もそこそこに駅の雑踏へと歩を進める。
 改札口を潜り抜けたところで「ぴたちゃん!」と呼び止められた。
「必ず戻るから!」
 泣き顔で、それでも情熱を宿した視線を向けるよんちゃんがいた。
「時間はかかるかもしれないけど、必ず戻るから! 生徒会長として、必ず戻ってみせるから!」
 ああ、久しぶりのたまちゃんの声だ。待ち望んだたまちゃんの言葉だ。
 私は嬉しくて嬉しくて、笑顔を見せようと思ったけれどうまくいかず、誰かさんと同じようにうん、うんと頷いていた。
 
 新幹線の座席に深くもたれかかる。涙を流したからだろうか、にわかにお腹が空いてきた。ぴたアカウントで「広島から東京に帰るよ! お腹ペコペコ(´-ω-`)」と呟く。
 すぐにフォロワーからリプがきた。
 大阪へGO!
 大阪かぁ。確かに立ち寄ってみるのもいいかもしれない。たこ焼きもあるし、お好み焼きもある。昨日食べた広島焼とどっちがおいしいか食べ比べてみたいし。
 いやいやふーさん、広島焼じゃなくてお好み焼き! あっちが大阪風だから!
 たまちゃんのツッコミが思い浮かんだ。私は微笑みながら深い眠りについた。