>>729
人に意見をして疵を直す云ふは大切なる事にして、然も大慈悲にして、
御奉公の第一にて候。意見の仕様、大いに骨を折ることなり。およそ人の上の善悪を
見出すは易き事なり。それを意見するもまた易き事なり。大かたは、人の好かぬ云ひに
くき事を云ふが親切のやうに思ひ、それを請けねば、力及ばざる事と云ふなり。
何の益にも立たず。ただ徒らに、人に恥をかかせ、悪口すると同じ事なり。
我が胸はらしに云ふまでなり。そもそも意見と云ふは、先ずその人の請け容るるか、
請け容れぬかの気をよく見分け、入魂になり、此方の言葉を平素信用せらるる様に仕なし候により、
さて次第に好きの道などより引き入れ、云ふ様種々に工夫し、時節を考へ、或は文通、或は雑談の末などの折に、
我が身の上の悪事を申出し、云はずして思ひ当る様にか、又は、先ずよき処を褒め立て、
気を引き立つ工夫を砕き、渇く時水を飲む様に請け合せて、疵を直すが意見なり。されば殊の外仕にくきものなり