「ごめん、わたしは戌亥のことが好きだから」

その言葉を聞いた瞬間、私の身体は何かを考える前に動いていた。
気が付いた時、私の手には真紅色に染まった聖剣ヘルエスタセイバーが握られていて、彼女―――アンジュ・カトリーナが血溜まりの中に沈んでいた。
彼女の胸には大きな刺し傷が開き、そこから血が泉のように湧き出ている。彼女の青い瞳は見開かれ、虚空を仰いだままで動かない。

私の手から聖剣が滑り落ち、大理石の床へとカランと音を立てて転がっていく。
それに続くように身体が床に倒れるようにへたり込んだ。重度の貧血にかかったかのように力が入らない。
空虚と喪失感が私の身体から全ての活力を奪い去ってしまったのか。思考があらゆる事を放棄したのか。私は何も考えられず、何かをしようともしなかった。

数分か、数時間か、数日か。いつまで時が流れたのか分からない程に呆然としていると、声が聞こえた。

「リゼはん」

それを耳にした瞬間、ひくりと自分の身体が痙攣を起こしたかのように震えあがった。
声の方向に顔を向けると、いつからそこにいたのだろう。そこには私の友人であり、アンジュの恋人になったであろう女の子。
戌亥とこが何の感情も宿っていない視線を私に向けて、佇んでいた。