百田尚樹@hyakutanaoki
『夏の騎士』の冒頭

勇気――それは人生を切り拓く剣だ。
ぼくが勇気を手にしたのは昭和の最後の夏だ。あれから三十一年の歳月が流れた。平成は過ぎ去り令和になり、十二歳の少年は四十三歳の中年男になった。
今もどうにか人生の荒浪を渡っていけているのは、ほんのわずかに持ち合わせた勇気のおかげかもしれない。
小学校最後の夏を迎えようとしていた頃、ぼくは意気地なしで臆病な子供だった。それを周囲に知られないように、いつも陽気にふるまい、時には向こう見ずな風を演じてもいた。
しかし今思えば、同級生たちには本当はそうではないとばれていたのかもしれない。というのも、口だけは達者だったが、ケンカになりそうになると、途端に意気地なしになったからだ。
それでもいじめられっ子にならなかったのは、二人の友人がいたからだ。