廃ビルの階段を登りきると、そこには荒れ果てた部屋があった。
川本恒平は暗く小さな部屋へ誰に言われるでもなく入っていく。

──ここは袋小路だ。

川本は人生のどんsokoにいた。
全ては鋼アンのせいであり、彼らの嫌がらせによって『こんなところ』まで来てしまったのだ。
……と、最近まで本気でそう思っていたが、いつからか気づいてしまった。
自分を追い詰めてきたのは、いつだって自分だった。
自演のために作ったお人形は、いつしか自分の首を絞める
ドッペルゲンガーと化していたためアンチをkemuに巻くこともできない。

もう寿司のない三食団子生活は耐えられなかった。
川本は部屋の窓から下を覗き込んだ。死ぬには十分な高さだ。
足を上げると、何ヶ月も取り替えてないパンツからは異臭が立ち上る。
最後まで嫌なことずくめだ。

川本は顔をしかめ、窓から飛び降りた──

贅肉がばたばたと揺れて、地面が猛スピードで近づいてくる。

怖い、死にたくない!!

しかし、もう飛び降りた後だというのに、川本は後悔に襲われてしまう。

──人生をやり直したいと思い!……いや、今からでもやり直せるんじゃないのか?

そんな考えが頭によぎったとき、川本は歌いだしていた。

「チェンジチェンジチェンジ!!」

もしかしたら、奇跡が起こって高校生に戻れるかもしれない。
そうしたら、もう失敗しない。勉強だってまじめにやる。

「チェンジチェンジチェンジ!!」

川本は歌う。
ファンが戻ってきて、アンチが爆発するかもしれない。
地面にぶつかる瞬間に待っているのはきっと死なんかじゃない。
俺は変われる!変われるんだ!

ああ、満員の観客が俺を待っている!!そして──

ガッシャアアアアン!

川本の思考はそこで中断させられた。

「こぽこぽ……」

川本は不幸にも死んではいなかった。
そしてもちろん、過去に戻れたはずもない。

彼を待っていたのは想像を絶する苦痛だった。
落下地点にあったフェンスがクッションの役目を果たしたため、絶命には至らない。
ただ、みぞおちをしたたかに打ちつけたため、口から吐瀉物が溢れ、尻からは大量の緑の糞がもれ、
体のあちこちから出た血液が川本の周りで混ざり合っていた。

腹を抱えぴくぴくと痙攣する姿はまさに三色団子虫だった。