1人で新幹線に乗るのは初めてだった。
あまり外に出ることのない深淵を今、遠く離れたこの町までいざなったのはとあるネットの書き込みであった。
そう、ここに来れば彼に会える。

店内を見渡す。店員の中に彼らしき人物は見当たらない。厨房にいる1人の顔が見えないが、背格好からして彼ではなさそうだ。
まあいい、ホテルは2日分取ってある。3日のうちのどこかで会えればいい、そう思ったその時だった。

「ご注文は?」

おかしい。そんなはずはない。
しかし目の前の短髪で細身で清潔感のある青年から発せられた声は間違いなく、よく知っている"彼"の声だった。
深淵は思わず逃げ出した。


すぐに深淵は下りの新幹線に乗っていた。目の前の現実に耐えられなかった。彼は変わっていた。深淵が忘れられずに手の首に線を引いている間に、"しりり"はもう"しりり"ではなくなっていた。
風より早く進む新幹線とは正反対に深淵の心は取り残されていた。