2019/03/13 金剛いろは もこ田めめめコラボの真実

 二人の部屋を取り戻すために、金剛と夜桜はもこ田に挑んだが、圧倒的なめめめの力の前では、争いというよりは、むしろ一方的な暴力の形をとった。
 自分が復讐に囚われすぎていたことを悟った夜桜は、目の前のもこ田は、実は大量に集まり、一丸となって蠢く毛玉ちゃんやウニ達だということに気がついた。

 いろはが巨大なめめめの腹に触れるのが見えた。夜桜は「待って!」と叫んだ。めめめの表面の毛玉やウニが総毛立って、夜桜の素手を傷つけた。
 もこ田の腕に手を這わせながら、たまは歩き出した。手のひらが棘で裂けた。奇妙な冷たさのあとに、血が流れるときの腫れ上がったような痛みがやってきた。それでも夜桜は進み続けた。
「痛くない、めめめちゃん、大丈夫、あたしはめめめちゃんを傷つけたりしないよ」
 もう片方の手で、もこ田が夜桜の胴体を握りしめた。肺から空気が抜けた。夜桜の体から一万二千点分の点棒が散った。それでもたまはめめめを見つめた。笑みを浮かべた。めめめが手の力を強めた。
「なんでわらったの」
「毛玉ちゃんでしょ、今言ってるの……めめめちゃんを出しなよ、いるんでしょ、そこに」
 夜桜が「あたし、めめめちゃんに謝らなきゃいけない」と言った。そしてめめめの腕を握った。一瞬、力が均衡した。そして、めめめの腕が無数の毛玉ちゃんへとほぐれた。ほこりのような無数の毛玉ちゃんが舞った。
「あたし、めめめちゃんのことバカにしてた。オウムって言ってた。台本読みだけはうまいって。ネットでめめめちゃんをインド生まれにしたのもあたし。あの日も、見る価値ないって、ちびたまに実況させてた。どうせお通夜なんだろって」
 もこ田の体表が、波を打ったようにさざめいた。たまがめめめの腹の前に立った。顎を上げて、自分の倍ほどもあるめめめを見上げた。
「本当にごめん。謝る。許されると思ってないけど、でも本当にごめん。……ほら、あたしのこと、オウムにしていいよ」
 時間が停まったように思われた。夜桜の頬を涙が伝って、床に落ちた。その瞬間、巨大めめめが一気に崩壊した。中心部から本物のめめめが解き放たれた。北上が駆け寄って、受け止めた。
 
 北上の腕の腕の中で、めめめは目を覚ました。そして一部始終を説明した。コラボの途中から、ひどいめまいに悩まされたこと。コメントが歪んで見えたこと。そして、気がついたら身動きが取れなくなっていたこと。
「沢山の毛玉ちゃんたちに囲まれて……みんな、めめめを庇ってくれて。悪くないよって言ってくれて。あったかくてきもちよくて、それで、気がついたら……」
「けだまちゃん きょうぼうになってたんだね」
 北上が、落ちていた毛玉ちゃんを一匹拾い上げてつぶやいた。彼女の手のひらで、二、三回飛び跳ねて、毛玉ちゃんは電子の海に溶けていった。
「うん、でも、お願い、毛玉ちゃんを責めないで……! みんな、わたしのことを思ってて、頑張ってて、それはちゃんと分かってて、でも、でも何にもできなくて、みんな、ごめぇん!」
 夜桜がもこ田の頬をそっとなでた。優しく抱き寄せた。めめめの体はしっかりとした感触があった。靴下が左右で違った。耳が頬にあたってちくちくとした。毛が鼻や口に入った。それでも夜桜は抱きしめ続けた。
「大丈夫、めめめは悪くないよ。毛玉ちゃんも悪くないよ」
「わるくない」
「……うん。だから、一緒にかえろう!」
「いっしょにかえる」
 後ろで、ウクレレの音が微かに鳴った。神楽が微笑みながら立っていた。彼女の首元には、まだ少しだけ、ゴリラ特有の黒い毛が残っていた。
「めめめちょっとオウムで草」
 そこにいた全員が、弾けたように笑い声を漏らした。でも、ことの始まりも、きっとこの程度のことだったと、夜桜は気がついた。それによって、彼女は2つのことを知った。
 つまり、もうこの戦いは終わったということを。そして、このような形でもたらされた平穏でさえ、不安定だということを。