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ホロライブに所属するVtuberの湊あくあに関するアンチスレです
配信スケジュールはホロライブ公式Twitter、所属メンバーのTwitterで確認
────────────────────────────────────
・スレを立てるときは先頭に「!extend:none:none:1000:512」を三行いれよう
・sage進行推奨。E-mail欄(メール欄/メ欄)に半角小文字で「sage」と記入。
・次スレは>>950が立てること。無理ならば代理人を指名するか踏まないこと。
────────────────────────────────────
■前スレ
【バーチャルBilibiler】湊あくあアンチスレ#366【ホロライブ】
https://egg.5ch.net/test/read.cgi/streaming/1547395426/
VIPQ2_EXTDAT: none:none:1000:512:----: EXT was configured
探検
【バーチャルBilibiler】湊あくあアンチスレ#367【ホロライブ】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
2019/01/14(月) 07:40:30.13
2019/01/14(月) 17:25:11.34
>>644
かちょう?!
かちょう?!
2019/01/14(月) 17:25:14.92
>>644
かちょうさん!?
かちょうさん!?
2019/01/14(月) 17:25:19.15
>>644
かちょう!?
かちょう!?
2019/01/14(月) 17:25:20.91
2019/01/14(月) 17:25:29.49
>>648
キモいよお前
キモいよお前
2019/01/14(月) 17:25:33.61
>>644
かちょうさん!?
かちょうさん!?
2019/01/14(月) 17:25:44.02
>>644
かちょう!?
かちょう!?
2019/01/14(月) 17:25:44.78
>>644
かちょう!?
かちょう!?
2019/01/14(月) 17:26:00.06
>>644
かちょう?!
かちょう?!
2019/01/14(月) 17:26:14.48
かちょう擁護は流石に草
2019/01/14(月) 17:26:16.14
>>644
かちょうさん!?
かちょうさん!?
2019/01/14(月) 17:26:21.66
>>644
ぱみ君!?
ぱみ君!?
2019/01/14(月) 17:26:48.45
>>644
ごんくん!?
ごんくん!?
2019/01/14(月) 17:26:56.04
リスナー叩ききもいけど残念ながらこのスレの恒例行事なんだよなぁ
2019/01/14(月) 17:27:07.67
害悪リスナー多すぎて…
2019/01/14(月) 17:27:31.20
普通のリスナー晒しならともかくかちょうは叩かれて当然という
2019/01/14(月) 17:27:32.76
なんだ、久しぶりに過去の姿に戻りつつあるのか?
いいぞもっとやれ
いいぞもっとやれ
2019/01/14(月) 17:27:54.87
演者叩けは草
2019/01/14(月) 17:28:05.97
正直こっちのノリの方が好き
誰も悲しまない平和な世界
誰も悲しまない平和な世界
2019/01/14(月) 17:28:16.80
この流れ…すこだw
2019/01/14(月) 17:28:26.11
かちょうのせいで騎士は死んだし
ごんぎつねのせいではあとはイライラしたし
ごんぎつねのせいではあとはイライラしたし
2019/01/14(月) 17:28:35.65
かちょうがこのスレ見たら悲しむよ
2019/01/14(月) 17:28:48.18
対立煽りくんが尻尾出してて草
そうかーあくアン君だったかー
そうかーあくアン君だったかー
2019/01/14(月) 17:28:48.63
かちょうしいもふごんあたりはどんどんいっちゃっていいよ
2019/01/14(月) 17:29:33.52
リスナーを選ぶな 叩くなら全員叩け
2019/01/14(月) 17:29:34.55
もう対立煽りできないねえ
2019/01/14(月) 17:29:36.23
塩っ子だけどこの流れに乗っていいか?和解しよう
2019/01/14(月) 17:29:37.00
名前出さないけどあの人はマジでそっとしといてやれ
2019/01/14(月) 17:30:18.29
>>675
いいぞ、お前の敵はごんぎつねだ
いいぞ、お前の敵はごんぎつねだ
2019/01/14(月) 17:30:47.11
>>675
お前はシオン専用スレに行け
お前はシオン専用スレに行け
2019/01/14(月) 17:31:00.34
ごんぎつね君のおなかペロペロしたい
2019/01/14(月) 17:31:10.04
親方最近のほうのうたわれは知らんのか
2019/01/14(月) 17:31:38.32
リスナー叩きは晒しスレでも作ってそっちでやれ
2019/01/14(月) 17:31:57.01
ご意見表明程度なら多少の厄介でも思想信条の自由だからまあいい
かちょうみたいなガチの営業妨害は流石に許されない
かちょうみたいなガチの営業妨害は流石に許されない
2019/01/14(月) 17:32:02.39
親方頼むからはあとと歌かぶせないでくれよ・・・
2019/01/14(月) 17:32:12.58
今ぐらいの頻度なら別に分けなくてもいいよ
2019/01/14(月) 17:32:20.24
リスナー叩きは伝統だろ
対立煽りこそどっか別でやれ
対立煽りこそどっか別でやれ
2019/01/14(月) 17:32:52.40
一人だけ触れちゃいけないみたいな扱いされてるのは草
2019/01/14(月) 17:33:02.55
対立煽りと他箱の話題は別スレ立ててやってほしい
2019/01/14(月) 17:33:06.05
演者の邪魔になるリスナーは叩いていけ
2019/01/14(月) 17:33:15.61
リスナー叩きというより害悪叩きなんだよなぁ…
嫌がってるやつは叩かれるようなことしてんの?
嫌がってるやつは叩かれるようなことしてんの?
2019/01/14(月) 17:33:41.92
>>689
あっ…
あっ…
2019/01/14(月) 17:33:46.25
>>686
俺らが触れたせいでかけんでもいい迷惑かかったし...
俺らが触れたせいでかけんでもいい迷惑かかったし...
2019/01/14(月) 17:34:36.82
叶えより厄介
2019/01/14(月) 17:34:47.27
対立煽りはここでやれ
他箱は他でリスナー叩きはネットwatchにでも立てろ
他箱は他でリスナー叩きはネットwatchにでも立てろ
2019/01/14(月) 17:34:59.90
>>692
ベクトル違うだけで同じくらいだろ
ベクトル違うだけで同じくらいだろ
2019/01/14(月) 17:35:06.29
>>689
普通に応援してるだけなら晒されても別に痛くも痒くもないしな
普通に応援してるだけなら晒されても別に痛くも痒くもないしな
2019/01/14(月) 17:35:28.29
2019/01/14(月) 17:35:28.47
>>694
マジで言ってんの?
マジで言ってんの?
2019/01/14(月) 17:35:49.52
まさかかちょうが釣れるとはな
2019/01/14(月) 17:35:50.73
また言論統制始まっちゃった…😨
2019/01/14(月) 17:36:03.17
2019/01/14(月) 17:36:08.38
>>694
それは無い
それは無い
2019/01/14(月) 17:36:30.82
>>693
ホロスレは初期からこんな感じだが?
ホロスレは初期からこんな感じだが?
2019/01/14(月) 17:36:56.38
ROM勢だけどリスナー叩きでいいぞ
懐かしいわ
懐かしいわ
2019/01/14(月) 17:37:06.89
無しスレでガイガイしちゃだめですか?
2019/01/14(月) 17:37:11.02
リプしてるのみてうぜーなら分かるけど
独り言まで追ってる奴も大概だからな
そんなヤバい奴がやめろと言われてやめるわけがないやん?
独り言まで追ってる奴も大概だからな
そんなヤバい奴がやめろと言われてやめるわけがないやん?
2019/01/14(月) 17:37:12.19
>>696
太客と有産いなくなったら困るのはお前ゾ
太客と有産いなくなったら困るのはお前ゾ
2019/01/14(月) 17:37:33.97
>>693
お客釣れたな
お客釣れたな
2019/01/14(月) 17:38:08.99
P君については申し訳ないと思ってるけど他はいいぞ
2019/01/14(月) 17:38:18.16
かちょうさんは放置すると太客と有産いなくなって困るゾ
2019/01/14(月) 17:38:23.18
>>706
かちょういなくなっても困んないがwww
かちょういなくなっても困んないがwww
2019/01/14(月) 17:39:04.63
放置するとってここで陰口言ってるだけじゃん
2019/01/14(月) 17:39:14.60
おるだんけ!
2019/01/14(月) 17:39:15.63
致命傷以外でここに晒されてる奴は別に消えてもいいぞ
2019/01/14(月) 17:39:23.86
ホロスレ滅茶苦茶なことになってんな
たまに見に行こうと思うとどこ見りゃいいかわからんわ
たまに見に行こうと思うとどこ見りゃいいかわからんわ
2019/01/14(月) 17:39:36.48
2019/01/14(月) 17:40:13.05
リスナー叩きはキモいっていってんだよ
2019/01/14(月) 17:40:20.45
>>711
じゃけん通報しましょうね〜
じゃけん通報しましょうね〜
2019/01/14(月) 17:40:27.83
そらともとの戦いがホロスレの歴史なんだが?
2019/01/14(月) 17:40:48.13
そもそも対立煽りのせいでスレ乱立しすぎて追いにくいし迷惑この上ない
2019/01/14(月) 17:41:26.60
何しててもここいる時点でキモいから同じなんだよな
2019/01/14(月) 17:41:30.45
俺がしてるのはリスナー叩きではなくかちょう叩きだからセーフだな!
2019/01/14(月) 17:41:55.89
ムシキングは数字ガチ恋の成れの果てだからな
2019/01/14(月) 17:42:02.23
2019/01/14(月) 17:42:03.13
2019/01/14(月) 17:42:05.55
言っちゃ悪いが俺以外全員キモいよw
2019/01/14(月) 17:42:07.51
俺ははあととちょこの杞憂できればなんでもいいよ
2019/01/14(月) 17:42:40.12
害悪はリスナーなのか
2019/01/14(月) 17:43:06.07
タム…どこ…?
2019/01/14(月) 17:43:25.89
無産は許す
無銭も許す
かちょうは許さない
無銭も許す
かちょうは許さない
2019/01/14(月) 17:43:41.40
2019/01/14(月) 17:43:55.88
画像やエクセルは貼るが箱内の誰かをsageた事は一度もない
2019/01/14(月) 17:44:21.82
マジレスすると表面上はかちょうと仲良くやってるやつがつぶやき晒してるだけで
ストーカーしてるわけじゃないぞ
ストーカーしてるわけじゃないぞ
2019/01/14(月) 17:44:44.13
あにまーれの僧侶より面倒くさい厄介いるんだな
734名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:44:47.78 2d4e4
2019/01/14(月) 17:44:54.41
反省に繋がるならsageてもいいんだよ
736名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:45:04.25 >>93
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
からで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
728864e197
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親達は、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にそ
の精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。互に恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れて
からで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
728864e197
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
2019/01/14(月) 17:45:15.14
ガイジ発言してるように見えるツイートする奴が悪いわ
738名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:45:20.77 >>471
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
4de245807e
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
か、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。 一カ月は過ぎた。 ところが、ある日、時雄は
芳子に宛てた一通の端書を受取った。英語で書いてある端書であった。何気なく読むと、一月ほどの生活費は
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
その運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡り合せた糸のように固く結び着けられて、一
種異様の心の状態を呈した。 悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男
女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自
然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。 汪然として涙は時雄の鬚
面を伝った。 ふとある事が胸に上った。時雄は立上って歩き出した。もう全く夜になった。境内の処々に立
てられた硝子燈は光を放って、その表面の常夜燈という三字がはっきり見える。この常夜燈という三字、これ
を見てかれは胸を衝いた。この三字をかれは曽て深い懊悩を以て見たことは無いだろうか。今の細君が大きい
桃割に結って、このすぐ下の家に娘で居た時、渠はその微かな琴の音の髣髴をだに得たいと思ってよくこの八
幡の高台に登った。かの女を得なければ寧そ南洋の植民地に漂泊しようというほどの熱烈な心を抱いて、華表
、長い石階、社殿、俳句の懸行燈、この常夜燈の三字にはよく見入って物を思ったものだ。その下には依然た
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
4de245807e
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
か、けれど手紙にも解らぬのは恋のまことの消息であった。 一カ月は過ぎた。 ところが、ある日、時雄は
芳子に宛てた一通の端書を受取った。英語で書いてある端書であった。何気なく読むと、一月ほどの生活費は
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
739名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:45:36.96 >>658
ぎなかった。 で、芳子は師を信頼した。時期が来て、父母にこの恋を告ぐる時、旧思想と新思想と衝突する
ようなことがあっても、この恵深い師の承認を得さえすればそれで沢山だとまで思った。 九月は十月になっ
た。さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深く碧く、日の光は透通った空気に射渡って、夕の影が濃くあ
たりを隈どるようになった。取り残した芋の葉に雨は終日降頻って、八百屋の店には松茸が並べられた。垣の
虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆くも落ちた。午前の中の一時間、九時より十時までを、ツルゲネーフの
小説の解釈、芳子は師のかがやく眼の下に、机に斜に坐って、「オン、ゼ、イブ」の長い長い物語に耳を傾け
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
2b1e10482d
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
んだ?」「文学を遣りたいと――」「文学? 文学ッて、何だ。小説を書こうと言うのか」「え、そうでしょ
う……」「馬鹿な!」 と時雄は一喝した。「本当に困って了うんですの」「貴嬢はそんなことを勧めたんじ
ゃないか」「いいえ」と烈しく首を振って、「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけ
でも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断
でそうして了ったんですッて。今更取かえしがつかぬようになって了ったんですッて」「どうして?」「神戸
の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田
中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって
、本当に困って了いますの」「馬鹿な!」 と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思
ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
ぎなかった。 で、芳子は師を信頼した。時期が来て、父母にこの恋を告ぐる時、旧思想と新思想と衝突する
ようなことがあっても、この恵深い師の承認を得さえすればそれで沢山だとまで思った。 九月は十月になっ
た。さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深く碧く、日の光は透通った空気に射渡って、夕の影が濃くあ
たりを隈どるようになった。取り残した芋の葉に雨は終日降頻って、八百屋の店には松茸が並べられた。垣の
虫の声は露に衰えて、庭の桐の葉も脆くも落ちた。午前の中の一時間、九時より十時までを、ツルゲネーフの
小説の解釈、芳子は師のかがやく眼の下に、机に斜に坐って、「オン、ゼ、イブ」の長い長い物語に耳を傾け
た。エレネの感情に烈しく意志の強い性格と、その悲しい悲壮なる末路とは如何にかの女を動かしたか。芳子
はエレネの恋物語を自分に引くらべて、その身を小説の中に置いた。恋の運命、恋すべき人に恋する機会がな
く、思いも懸けぬ人にその一生を任した運命、実際芳子の当時の心情そのままであった。須磨の浜で、ゆくり
なく受取った百合の花の一葉の端書、それがこうした運命になろうとは夢にも思い知らなかったのである。
雨の森、闇の森、月の森に向って、芳子はさまざまにその事を思った。京都の夜汽車、嵯峨の月、膳所に遊ん
だ時には湖水に夕日が美しく射渡って、旅館の中庭に、萩が絵のように咲乱れていた。その二日の遊は実に夢
のようであったと思った。続いてまだその人を恋せぬ前のこと、須磨の海水浴、故郷の山の中の月、病気にな
らぬ以前、殊にその時の煩悶を考えると、頬がおのずから赧くなった。 空想から空想、その空想はいつか長
い手紙となって京都に行った。京都からも殆ど隔日のように厚い厚い封書が届いた。書いても書いても尽くさ
れぬ二人の情――余りその文通の頻繁なのに時雄は芳子の不在を窺って、監督という口実の下にその良心を抑
えて、こっそり机の抽出やら文箱やらをさがした。捜し出した二三通の男の手紙を走り読みに読んだ。 恋人
のするような甘ったるい言葉は到る処に満ちていた。けれど時雄はそれ以上にある秘密を捜し出そうと苦心し
た。接吻の痕、性慾の痕が何処かに顕われておりはせぬか。神聖なる恋以上に二人の間は進歩しておりはせぬ
2b1e10482d
準備して行く、あとは東京で衣食の職業が見附かるかどうかという意味、京都田中としてあった。時雄は胸を
轟かした。平和は一時にして破れた。 晩餐後、芳子はその事を問われたのである。 芳子は困ったという風
で、「先生、本当に困って了ったんですの。田中が東京に出て来ると云うのですもの、私は二度、三度まで止
めて遣ったんですけれど、何だか、宗教に従事して、虚偽に生活してることが、今度の動機で、すっかり厭に
なって了ったとか何とかで、どうしても東京に出て来るッて言うんですよ」「東京に来て、何をするつもりな
んだ?」「文学を遣りたいと――」「文学? 文学ッて、何だ。小説を書こうと言うのか」「え、そうでしょ
う……」「馬鹿な!」 と時雄は一喝した。「本当に困って了うんですの」「貴嬢はそんなことを勧めたんじ
ゃないか」「いいえ」と烈しく首を振って、「私はそんなこと……私は今の場合困るから、せめて同志社だけ
でも卒業してくれッて、この間初めに申して来た時に達って止めて遣ったんですけれど……もうすっかり独断
でそうして了ったんですッて。今更取かえしがつかぬようになって了ったんですッて」「どうして?」「神戸
の信者で、神戸の教会の為めに、田中に学資を出してくれている神津という人があるのですの。その人に、田
中が宗教は自分には出来ぬから、将来文学で立とうと思う。どうか東京に出してくれと言って遣ったんですの
。すると大層怒って、それならもう構わぬ、勝手にしろと言われて、すっかり支度をしてしまったんですって
、本当に困って了いますの」「馬鹿な!」 と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思
ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方に出て来ていては、貴嬢の監督上
、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、厳しく止めて遣んなさい!」 芳子は愈※(二の字
点、1-2-22)困ったという風で、「止めてはやりますけれど、手紙が行違いになるかも知れませんから
」「行違い? それじゃもう来るのか」 時雄は眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)った。「今
来た手紙に、もう手紙をよこしてくれても行違いになるからと言ってよこしたんですから」「今来た手紙ッて
、さっきの端書の又後に来たのか」 芳子は点頭いた。「困ったね。だから若い空想家は駄目だと言うんだ」
2019/01/14(月) 17:45:47.33
やっときたか
ほなまたw
ほなまたw
741名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:45:53.22 >>292
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
eed010285d
る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、
その二人の所謂神聖なる恋の為めに力を尽すべく余儀なくされた。 時雄は悶えざるを得なかった。わが愛す
るものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は
無い。そういう明らかな定った考があれば前に既に二度までも近寄って来た機会を攫むに於て敢て躊躇すると
ころは無い筈だ。けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子
を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで攫むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る
機会を待って、新なる運命と新なる生活を作りたいとはかれの心の底の底の微かなる願であった。時雄は悶え
た、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨との念が一緒になって旋風のように頭脳の中を回転した。師としての道
義の念もこれに交って、益※(二の字点、1-2-22)炎を熾んにした。わが愛する女の幸福の為めという
犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨の如く酔って寝た。 あくる日は日曜
日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘しい。欅の古樹に降りかかる雨の脚、それが実に
長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もな
い。もう秋で冷々と背中の冷たい籐椅子に身を横えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半
生のことを考えた。かれの経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることが出来
ずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味った。文学の側でもそうだ、社会
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
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る家屋、電車の轟こそおりおり寂寞を破って通るが、その妻の実家の窓には昔と同じように、明かに燈の光が
輝いていた。何たる節操なき心ぞ、僅かに八年の年月を閲したばかりであるのに、こうも変ろうとは誰が思お
う。その桃割姿を丸髷姿にして、楽しく暮したその生活がどうしてこういう荒涼たる生活に変って、どうして
こういう新しい恋を感ずるようになったか。時雄は我ながら時の力の恐ろしいのを痛切に胸に覚えた。けれど
その胸にある現在の事実は不思議にも何等の動揺をも受けなかった。「矛盾でもなんでも為方がない、その矛
盾、その無節操、これが事実だから為方がない、事実! 事実!」 と時雄は胸の中に繰返した。 時雄は堪
え難い自然の力の圧迫に圧せられたもののように、再び傍のロハ台に長い身を横えた。ふと見ると、赤銅のよ
うな色をした光芒の無い大きな月が、お濠の松の上に音も無く昇っていた。その色、その状、その姿がいかに
も侘しい。その侘しさがその身の今の侘しさによく適っていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸に
漲り渡った。 酔は既に醒めた。夜露は置始めた。 土手三番町の家の前に来た。 覗いてみたが、芳子の室
に燈火の光が見えぬ。まだ帰って来ぬとみえる。時雄の胸はまた燃えた。この夜、この暗い夜に恋しい男と二
人! 何をしているか解らぬ。こういう常識を欠いた行為を敢てして、神聖なる恋とは何事? 汚れたる行為
の無いのを弁明するとは何事? すぐ家に入ろうとしたが、まだ当人が帰っておらぬのに上っても為方が無い
と思って、その前を真直に通り抜けた。女と摩違う度に、芳子ではないかと顔を覗きつつ歩いた。土手の上、
松の木蔭、街道の曲り角、往来の人に怪まるるまで彼方此方を徘徊した。もう九時、十時に近い。いかに夏の
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
2019/01/14(月) 17:45:55.87
かちょうすぐファビョるんだ
2019/01/14(月) 17:46:06.99
お、あくアンのいつもの手口きたあああああああああああ
必殺荒らし攻撃だあああああああああああ
必殺荒らし攻撃だあああああああああああ
744名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:46:09.41 >>955
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
4c6a91fe03
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
したのですの?」「何アに……けれどねえ姉さん」と時雄の声は改まった。「実は姉さんにおまかせしておい
ても、この間の京都のようなことが又あると困るですから、芳子を私の家において、十分監督しようと思うん
ですがね」「そう、それは好いですよ。本当に芳子さんはああいうしっかり者だから、私みたいな無教育のも
のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
たり何かするものだから、角の交番でね、不審にしてね、角袖巡査が家の前に立っていたことがあったと云い
ますよ。それはそんなことは無いんだから、構いはしませんけどもね……」「それはいつのことです?」「昨
年の暮でしたかね」「どうもハイカラ過ぎて困る」と時雄は言ったが、時計の針の既に十時半の処を指すのを
の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気
地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲネーフのいわゆる Superfluous
man ! だと思って、その主人公の儚い一生を胸に繰返した。 寂寥に堪えず、午から酒を飲むと言出し
た。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪を起し
て、自棄に酒を飲んだ。一本、二本と徳利の数は重って、時雄は時の間に泥の如く酔った。細君に対する不平
ももう言わなくなった。徳利に酒が無くなると、只、酒、酒と言うばかりだ。そしてこれをぐいぐいと呷る。
気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の児の五歳になるのを始めは頻りに可愛がって抱いた
り撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣出したのに腹を立てて、ピシャピシャとその尻を乱
打したので、三人の子供は怖がって、遠巻にして、平生に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見て
いた。一升近く飲んでそのまま其処に酔倒れて、お膳の筋斗がえりを打つのにも頓着しなかったが、やがて不
思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌い出した。君が門辺をさまよふは巷の塵を吹
き立つる嵐のみとやおぼすらん。その嵐よりいやあれにその塵よりも乱れたる恋のかばねを暁の 歌を半ばに
して、細君の被けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷の方へ小山の如く動いて行った。何処へ? 何
処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関わず、蒲団を着たま
ま、厠の中に入ろうとした。細君は慌てて、「貴郎、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場ですよ
」 突如蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。時雄はふらふらと危く小便をしてい
たが、それがすむと、突如※(「革+堂」、第3水準1-93-80)と厠の中に横に寝てしまった。細君が
汚がって頻りに揺ったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく
、赤土のような顔に大きい鋭い目を明いて、戸外に降り頻る雨をじっと見ていた。 時雄は例刻をてくてくと
4c6a91fe03
夜であるからと言って、そう遅くまで出歩いている筈が無い。もう帰ったに相違ないと思って、引返して姉の
家に行ったが、矢張りまだ帰っていない。 時雄は家に入った。 奥の六畳に通るや否、「芳さんはどうしま
した?」 その答より何より、姉は時雄の着物に夥しく泥の着いているのに驚いて、「まア、どうしたんです
、時雄さん」 明かな洋燈の光で見ると、なるほど、白地の浴衣に、肩、膝、腰の嫌いなく、夥しい泥痕!「
何アに、其処でちょっと転んだものだから」「だッて、肩まで粘いているじゃありませんか。また、酔ッぱら
ったんでしょう」「何アに……」 と時雄は強いて笑ってまぎらした。 さて時を移さず、「芳さん、何処に
行ったんです」「今朝、ちょっと中野の方にお友達と散歩に行って来ると行って出たきりですがね、もう帰っ
て来るでしょう。何か用?」「え、少し……」と言って、「昨日は帰りは遅かったですか」「いいえ、お友達
を新橋に迎えに行くんだって、四時過に出かけて、八時頃に帰って来ましたよ」 時雄の顔を見て、「どうか
したのですの?」「何アに……けれどねえ姉さん」と時雄の声は改まった。「実は姉さんにおまかせしておい
ても、この間の京都のようなことが又あると困るですから、芳子を私の家において、十分監督しようと思うん
ですがね」「そう、それは好いですよ。本当に芳子さんはああいうしっかり者だから、私みたいな無教育のも
のでは……」「いや、そういう訳でも無いですがね。余り自由にさせ過ぎても、却って当人の為にならんです
から、一つ家に置いて、十分監督してみようと思うんです」「それが好いですよ。本当に、芳子さんにもね…
…何処と悪いことのない、発明な、利口な、今の世には珍らしい方ですけれど、一つ悪いことがあってね、男
の友達と平気で夜歩いたりなんかするんですからね。それさえ止すと好いんだけれどとよく言うのですの。す
ると芳子さんはまた小母さんの旧弊が始まったって、笑っているんだもの。いつかなぞも余り男と一緒に歩い
たり何かするものだから、角の交番でね、不審にしてね、角袖巡査が家の前に立っていたことがあったと云い
ますよ。それはそんなことは無いんだから、構いはしませんけどもね……」「それはいつのことです?」「昨
年の暮でしたかね」「どうもハイカラ過ぎて困る」と時雄は言ったが、時計の針の既に十時半の処を指すのを
745名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:46:25.64 >>947
落々々と申して、殆ど歯せぬばかりに申しておりますが、私達の恋はそんなに不真面目なもので御座いましょ
うか。それに、家の門地々々と申しますが、私は恋を父母の都合によって致すような旧式の女でないことは先
生もお許し下さるでしょう。先生、私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告が
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
7856b5f864
。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
差支なかった。学校に附属した教会、其処で祈祷の尊いこと、クリスマスの晩の面白いこと、理想を養うとい
うことの味をも知って、人間の卑しいことを隠して美しいことを標榜するという群の仲間となった。母の膝下
が恋しいとか、故郷が懐かしいとか言うことは、来た当座こそ切実に辛く感じもしたが、やがては全く忘れて
、女学生の寄宿生活をこの上なく面白く思うようになった。旨味い南瓜を食べさせないと云っては、お鉢の飯
に醤油を懸けて賄方を酷めたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽に物を言ったりする女学生の群の
中に入っていては、家庭に養われた少女のように、単純に物を見ることがどうして出来よう。美しいこと、理
想を養うこと、虚栄心の高いこと――こういう傾向をいつとなしに受けて、芳子は明治の女学生の長所と短所
とを遺憾なく備えていた。 尠くとも時雄の孤独なる生活はこれによって破られた。昔の恋人――今の細君。
曽ては恋人には相違なかったが、今は時勢が移り変った。四五年来の女子教育の勃興、女子大学の設立、庇髪
、海老茶袴、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨
のような歩き振、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなか
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
落々々と申して、殆ど歯せぬばかりに申しておりますが、私達の恋はそんなに不真面目なもので御座いましょ
うか。それに、家の門地々々と申しますが、私は恋を父母の都合によって致すような旧式の女でないことは先
生もお許し下さるでしょう。先生、私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告が
ありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓えるようなことも
御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座い
ます。どうか先生、私の決心をお許し下さい。芳子先生 おんもとへ 恋の力は遂に二人を深い惑溺の淵に沈
めたのである。時雄はもうこうしてはおかれぬと思った。時雄が芳子の歓心を得る為めに取った「温情の保護
者」としての態度を考えた。備中の父親に寄せた手紙、その手紙には、極力二人の恋を庇保して、どうしても
この恋を許して貰わねばならぬという主旨であった。時雄は父母の到底これを承知せぬことを知っていた。寧
ろ父母の極力反対することを希望していた。父母は果して極力反対して来た。言うことを聞かぬなら勘当する
とまで言って来た。二人はまさに受くべき恋の報酬を受けた。時雄は芳子の為めに飽まで弁明し、汚れた目的
の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送
った。けれど故郷の父母は、監督なる時雄がそういう主張であるのと、到底その口から許可することが出来ぬ
のとで、上京しても無駄であると云って出て来なかった。 時雄は今、芳子の手紙に対して考えた。 二人の
状態は最早一刻も猶予すべからざるものとなっている。時雄の監督を離れて二人一緒に暮したいという大胆な
言葉、その言葉の中には警戒すべき分子の多いのを思った。いや、既に一歩を進めているかも知れぬと思った
。又一面にはこれほどその為めに尽力しているのに、その好意を無にして、こういう決心をするとは義理知ら
ず、情知らず、勝手にするが好いとまで激した。 時雄は胸の轟きを静める為め、月朧なる利根川の堤の上を
散歩した。月が暈を帯びた夜は冬ながらやや暖かく、土手下の家々の窓には平和な燈火が静かに輝いていた。
7856b5f864
。芳子は町の小学校を卒業するとすぐ、神戸に出て神戸の女学院に入り、其処でハイカラな女学校生活を送っ
た。基督教の女学校は他の女学校に比して、文学に対して総て自由だ。その頃こそ「魔風恋風」や「金色夜叉
」などを読んではならんとの規定も出ていたが、文部省で干渉しない以前は、教場でさえなくば何を読んでも
差支なかった。学校に附属した教会、其処で祈祷の尊いこと、クリスマスの晩の面白いこと、理想を養うとい
うことの味をも知って、人間の卑しいことを隠して美しいことを標榜するという群の仲間となった。母の膝下
が恋しいとか、故郷が懐かしいとか言うことは、来た当座こそ切実に辛く感じもしたが、やがては全く忘れて
、女学生の寄宿生活をこの上なく面白く思うようになった。旨味い南瓜を食べさせないと云っては、お鉢の飯
に醤油を懸けて賄方を酷めたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽に物を言ったりする女学生の群の
中に入っていては、家庭に養われた少女のように、単純に物を見ることがどうして出来よう。美しいこと、理
想を養うこと、虚栄心の高いこと――こういう傾向をいつとなしに受けて、芳子は明治の女学生の長所と短所
とを遺憾なく備えていた。 尠くとも時雄の孤独なる生活はこれによって破られた。昔の恋人――今の細君。
曽ては恋人には相違なかったが、今は時勢が移り変った。四五年来の女子教育の勃興、女子大学の設立、庇髪
、海老茶袴、男と並んで歩くのをはにかむようなものは一人も無くなった。この世の中に、旧式の丸髷、泥鴨
のような歩き振、温順と貞節とより他に何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなか
った。路を行けば、美しい今様の細君を連れての睦じい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢に会話を賑かす若
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
746名無しさん@お腹いっぱい。
2019/01/14(月) 17:46:41.82 >>612
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
fa01513632
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
手伝いに一日社を休むべく余儀なくされたのである。 机を南の窓の下、本箱をその左に、上に鏡やら紅皿や
ら罎やらを順序よく並べた。押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗の蒲団夜具の一組を他の一方に入れようと
した時、女の移香が鼻を撲ったので、時雄は変な気になった。 午後二時頃には一室が一先ず整頓した。「ど
うです、此処も居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まア緩くり勉強するです
。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」「え……」と芳子は頭を垂れた
。「後で詳しく聞きましょうが、今の中は二人共じっとして勉強していなくては、為方がないですからね」「
え……」と言って、芳子は顔を挙げて、「それで先生、私達もそう思って、今はお互に勉強して、将来に希望
を持って、親の許諾をも得たいと存じておりますの!」「それが好いです。今、余り騒ぐと、人にも親にも誤
解されて了って、折角の真面目な希望も遂げられなくなりますから」「ですから、ね、先生、私は一心になっ
て勉強しようと思いますの。田中もそう申しておりました。それから、先生に是非お目にかかってお礼を申上
げなければ済まないと申しておりましたけれど……よく申上げてくれッて……」「いや……」 時雄は芳子の
言葉の中に、「私共」と複数を遣うのと、もう公然許嫁の約束でもしたかのように言うのとを不快に思った。
まだ、十九か二十の妙齢の処女が、こうした言葉を口にするのを怪しんだ。時雄は時代の推移ったのを今更の
ように感じた。当世の女学生気質のいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。勿論、こ
の女学生気質を時雄は主義の上、趣味の上から喜んで見ていたのは事実である。昔のような教育を受けては、
到底今の明治の男子の妻としては立って行かれぬ。女子も立たねばならぬ、意志の力を十分に養わねばならぬ
とはかれの持論である。この持論をかれは芳子に向っても尠からず鼓吹した。けれどこの新派のハイカラの実
行を見てはさすがに眉を顰めずにはいられなかった。 男からは国府津の消印で帰途に就いたという端書が着
いて翌日三番町の姉の家から届けて来た。居間の二階には芳子が居て、呼べば直ぐ返事をして下りて来る。食
fa01513632
い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく、夫の苦悶煩悶には全く風馬牛で、子供さえ
満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。「寂しき人々」
のヨハンネスと共に、家妻というものの無意味を感ぜずにはいられなかった。これが――この孤独が芳子に由
って破られた。ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にも豪い人のように渇仰して来る
のに胸を動かさずに誰がおられようか。 最初の一月ほどは時雄の家に仮寓していた。華やかな声、艶やかな
姿、今までの孤独な淋しいかれの生活に、何等の対照! 産褥から出たばかりの細君を助けて、靴下を編む、
襟巻を編む、着物を縫う、子供を遊ばせるという生々した態度、時雄は新婚当座に再び帰ったような気がして
、家門近く来るとそそるように胸が動いた。門をあけると、玄関にはその美しい笑顔、色彩に富んだ姿、夜も
今までは子供と共に細君がいぎたなく眠って了って、六畳の室に徒に明らかな洋燈も、却って侘しさを増すの
種であったが、今は如何に夜更けて帰って来ても、洋燈の下には白い手が巧に編物の針を動かして、膝の上に
色ある毛糸の丸い玉! 賑かな笑声が牛込の奥の小柴垣の中に充ちた。 けれど一月ならずして時雄はこの愛
すべき女弟子をその家に置く事の不可能なのを覚った。従順なる家妻は敢てその事に不服をも唱えず、それら
しい様子も見せなかったが、しかもその気色は次第に悪くなった。限りなき笑声の中に限りなき不安の情が充
ち渡った。妻の里方の親戚間などには現に一問題として講究されつつあることを知った。 時雄は種々に煩悶
した後、細君の姉の家――軍人の未亡人で恩給と裁縫とで暮している姉の家に寄寓させて、其処から麹町の某
女塾に通学させることにした。 それから今回の事件まで一年半の年月が経過した。 その間二度芳子は故郷
を省した。短篇小説を五種、長篇小説を一種、その他美文、新体詩を数十篇作った。某女塾では英語は優等の
出来で、時雄の選択で、ツルゲネーフの全集を丸善から買った。初めは、暑中休暇に帰省、二度目は、神経衰
弱で、時々癪のような痙攣を起すので、暫し故山の静かな処に帰って休養する方が好いという医師の勧めに従
ったのである。 その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家で
2019/01/14(月) 17:46:47.84
2019/01/14(月) 17:46:52.44
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