『ライター売りのただゆき』

バラック退去期限も迫ったある日の夜、小さな乞食が一人、ライターを売っていた。
ライターが売れなければ父親唯逸に叱られるので、すべてを売り切るまでは五所川原の実家には帰れない。
しかしネットの人々は、前科や今までの行いからただゆきには目もくれず、シカトしていくばかりだった。

夜も更け、ただゆきは少しでも暖まろうとライターに火を付けた。
ターボライターの炎と共に、トーストビーフなどのご馳走、札束などの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をした。

ネットを見るとアンチコメが流れ、大手ライバル配信者たちが「流れるアンチコメはただゆきがいかに嫌われ者であるかという象徴なのだ」と言ったことを思いだした。
次にライターを点けると、南武ナオ(豚)の幻影が現れた。
ライターの炎が消えると豚のんも消えてしまうことを恐れたただゆきは、慌てて持っていた売れ残りのターボライター全てに火を付けた。
そこには憧れのセルシオ、オートロックの高級マンションなどが現れた。

新しい月の朝、ただゆきは売れ残ったライターやタオルの在庫を抱えて幸せそうに微笑みながら河川敷で死んでいた。
しかし、ただゆきがライターの火で「俺の親父」に会い、天国ではなく地獄へ落ちたことはアンチの誰一人知る由はなかった。