クソッ……クソッ……アンチシネッ………クソッ…………

薄暗いネットカフェに、男の小声が響く

川本恒平、41歳、住所不定無職である。

髪は伸ばしっぱなしのボッサボサ、髭は剃らずにモジャモジャ
風呂は何日も入っておらず、服は洗濯する場所も無いのでゴミ収集車のような異臭を放っていた

入店するさいにあまりの臭さに店員が顔をかなめ、いや、しかめていた、
川本はその反応を見て「クソッ……俺は上級国民だぞ……」と心の中で言い返した

個室のドアを開け、乱暴に椅子に座るとPCの電源を点ける。
即座に2ちゃんねるにアクセスし、鋼兵アンチスレを開く

「クソッ!シネッ!シネッ!」

書き込みを見て憤怒する、ポケットからスマホも取り出すと2台体制で掲示板に書き込み始めた。
他人なりすまし、お人形会話、スレ民罵倒、鋼兵擁護
何をやってもアンチには通じない。
「フ,フワァ〜〜〜…………」
気付けば0時を回っていた、眠気から声を出して欠伸をしてしまう。
「クソッ!!!」
鞄からグリーンラベルを取り出し栓を開けると一気に喉に流し込む。
「ブッ!!!」
いきなり飲んだ為か、気管に入ってしまう
「クソッ!クソッ!クソッ!」
怒りに任せてまだ殆ど中身の入っているグリーンラベルを床に叩きつける
「ハァー………ハァー………」
やってしまった、これで150円分くらいは失ってしまった
普通の人間だったら、あまり気にはならないが普段から全ての食事を100円マック3つで済ましている(たまに誘惑に負けてやっぱり寿司をバカ食いするが)川本にとっては大金だった
「クソッ…………」
アンチのせいだ、アンチのせいだ、
そう自分に言い聞かせ、床にこぼれたビールに口を付けて啜る
バーガーの肉だけ吸出す技術がそこには、生きていた。

啜り飲んだ後に、さらにグリーンラベルをもう一本取り出し一気飲み
アルコールで眠気を飛ばす、こうでもしないとやってられない

「クソッ!シネッ!シネッ!シネッ!シンデシマエ!」

深夜のネカフェに声を響かせながら、アンチスレを埋め立ててゆく

「クソッ…………アンチ…………シネッ……………グー…………」

しかし眠気には勝てないのか、キーボードに突っ伏したまま寝てしまう
画面には「ぷっ(笑)ああああああああああああああああああああ」と書かれていた。

プッ………ブリッ……ブリブリッ……ブリブリブリブリュリュリュリュ
ジョワー………ビチャビチャビチャ…………

何者かに揺り動かされて起きる、川本は自分の置かれている状況に絶句した。
まずキーボードは自身の涎で完全に故障し床にはビールが散乱し(もちろん持ち込み禁止)
おまけに糞と小便を漏らしたみたいで椅子と床が悲惨な事になっていた。
ナイトパックの時間が過ぎていたのもそうだが、通りかかった他の客があまりの便臭に店員に異常を知らせていた。

「クソッ……便償すればいいんだろ………弁償……します………」

友人も人間関係も、何でも金で済ませようするのは川本の悪い癖だが、今の川本には金がなかった。
結局、弁償はしなくていい、掃除も後片付けも全て店でやる、料金も払わなくていい、だから二度と来るな
と店長に言われて川本は糞だらけのズボンのまま店を去っていった。

ナイトパック分の金が浮いた川本だったが、この後寿司と松屋で腹が裂けるまでヤケ食いし
結局持ち金は減ってしまった。