30歳でミシュラン三つ星行ったわい、絶賛される

先ずはその年齢でそういう店を訪れたことを賞賛したいです。今はピンと来ていないのかもしれませんが、その経験は後々じわじわ効いてくるはずです。お品書きが手元にあれば、大事に残しておいて下さい。そうでなければ、記憶が確かなうちに、概要をメモっておくと良いと思います。
 
良くも悪くも、今や高級料理は、ある種のオタクコンテンツです。日本料理に限らず、文脈を踏まえて初めてその価値が実体化します。昔と違い、日常的な食べ物が十分おいしくなったからですね。おいしさ「だけ」を求めるなら、高い金を払う必要はありません。
これはよく言われる「情報を食ってる」的な話とも近しいのですが、もちろんそれだけではなく、実質的な価値もちゃんとあります。質問者さんが行ったような店なら尚更でしょう。ただし、日本料理に関して言えば、あくまで個人的な感覚で言えば20000円くらいでおいしさはカンストかもしれません。質問者さんが行った店の半額くらいですかね? 三つ星を取ったともなれば、世界のフーディー、つまりオタクの極みみたいな人々の文脈も踏まえているということでしょう。そこが価格にも反映されます。
 
僕が一番愛している会席は、とある割烹の7700円のランチです。まあ、税・サ、そして明らかに割高な酒類も込みで考えると、料理だけで10000円くらいの実費にはなるのですが。これを愛しているのは、身も蓋もないですが「貧乏性」ゆえではあります。しかしそれだけではありません。この価格帯だと、珍しい食材や高級食材は出てきません。見慣れた食材ばかりで、なおかつあくまで野菜が中心になります。僕はそこにテンションが上がります。
これはこれで一周回ってオタクの極みみたいな話なんですが、日本料理の喜びが、そのくらいの価格で十分楽しめるのは確かです。もう一度話を戻すと、おいしさだけなら、さらにその半額以下で手に入れることは十分可能です。
 
では、そんな日本料理の喜びを感じるための解像度を得るにはどうすれば良いか。もちろん経験を重ねるのは王道の方法です。しかしそれは、当たり前ですが、意外と効率が悪いです。10000円の昼会席だって、10回行けば10万円ですからね。そこで僕がおすすめしたい、裏技的な方法があります。
 
ようやく本題に入ります。
その方法とは「専門書を買う」です。プロのための日本料理基礎知識、的なやつ。ここは安定の柴田書店でしょうね(利害関係含む)(しかしそれだけではない)。
作らなくてもいいです。写真を眺めつつ読むだけで十分です。一見なんでもないようなことに、ここまでの手間と、綿々と受け継がれてきた思想や技術が注がれているのか、ということが分かればそれでいいのです。それを丹念に読んでいると、絶対に「こんな料理を食べてみたい」と思うものが出てきます。と言いますか、ほぼ全ての料理がそうなると思います。
それを踏まえて会席を食べに行けば、7700円だろうと20000円だろうと、何かしらそういうものが出てきます。音源や動画を見て恋焦がれたミュージシャンやアイドルのライブに行くようなものです。これはフレンチだろうがイタリアンだろうが同じです。
作ると更に解像度が上がります。これは、憧れのミュージシャンのコピーバンドをやった上でライブに行くようなものですね。口幅ったいですが、僕のレシピ本は、こういう専門書から気負いなくやれる部分だけを都合よく抜き取ったもの、という側面があります。その延長と考えると、専門書の中にも実際に作れそうなものは結構出てくるはずです。それをすると解像度が更に上がるだけでなく、「答え合わせ」の楽しさも生まれます。
 
その後にまた、その三つ星店に行ってみましょう。
世界は一変しているはずです。