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19 インスマウスの影
たちが、いろいろ毛色の変わった各地の人間を連れてきたということもよくごぞんじのことと
思います。セイラム(マサチュセッツ州北東部にある港町)の男が支那人を妻にして帰ってきたという話をお聞きに
なったことがあるでしょう。それに、ほら、どこかコッド岬(マサチュセッツ州にある大西洋につきだした岬)の近くに
は、フィジー諸島(太平洋南部の英領植民地)の住民がいまでも大ぜいいるそうじゃありませんか。
 まあ、なんですね、インスマウスの連中の背後には、なにかそんなことがあるにちがいあり
ませんな。あの町は、沼や入江がたくさんあって、よその町とはいつも連絡が遮断されたよう
な形になっているものですから、くわしいことはよくわからないんです。が、マーシュ老船長
が、自分に任されている三隻の船を使って、二十人、三十人と、妙な住民たちを連れ帰ったに
ちがいないことだけは、かなりはっきりわかっています。現在インスマウスに住んでいる連中
には、確かに妙な特徴がありますな――もっともそれを、どう説明したらいいのかわたしには
わかりませんが、なにかこう、背すじがむずむずしてくるようなものなんです。あのサージェ
ントのバスにお乗りになれば、あの男にも、そういうところがあるから、ははあこれだな、と
すぐわかりますよ。あの連中のなかには、妙に頭が狭くって鼻が平べったく、それに眼はふく
らんでいて開きっぱなしみたいにじっと人をにらんでいるようなご面相のものがいるんですが、
こいつらの皮膚ときたら、お話になりません。鮫肌で吹きでものだらけだし、頸の両側はしわ
だらけでくびれているんです。おまけに、若いうちから、頭が禿げるときています。年を取っ
た連中は、それぁもう、見られたもんじゃありません――まったくの話が、あの連中をこの目
で見たときは、まさかと思いましたよ。自分の姿を鏡で見たら、きっと死ぬにちがいありませ
こんな感じでよければ。
ふりがなの判定と、割注(文中に2行に分けて注釈を入れる)の判定が難しいので誤判定されることがあります。
この画像の場合、ちょっと文字が小さい(解像度が低い)ので、少し拡大すると判定が上手くいくようです。
x2.5くらいリサイズしてみてください。