2008年10月23日15:37
ダウンロード違法化についての超初歩的な経済学

>これについては以前の記事でも書いたように、侵害による権利者の損失と宣伝効果による利益は、
ほぼプラスマイナスゼロだというのが、多くの実証研究の結果だ。

>つまりダウンロード違法化による金銭的利益がプラスマイナスゼロだとしても、
消費者の効用を考えると、文化庁が(暗黙のうちに)主張している(3)式は成り立たないのだ。
その理由は、独占によって総余剰は必ず減るからである。一般に死荷重はかなり大きいので、
かりに(1)式でB<Cになっているとしても、その効果を上回ると考えられる。

ここまでは1年生の夏学期の試験ぐらいの問題だが、文化庁が考えているのは、
独占による投資のインセンティブが死荷重よりも大きいということだろう。
これは先験的にはどちらともいえず、需要の価格弾力性に依存する。
P2Pによって大量の音楽ファイルが流通している現状をみると、
需要曲線はきわめて価格弾力的(ロングテール型になっている)と推定できるので、
死荷重は大きい。2002年のPaul Romerの計算によれば、
米国内のCDの独占価格によって生じている死荷重は360億ドルで、
これは全世界のレコード産業の売り上げ370億ドルにほぼ等しい。

つまり少なくとも音楽産業では、ダウンロード違法化の社会的な効果は
マイナスになる可能性が高い。この損失は負の外部効果を考えるともっと大きく、
P2Pなどの効率的なネットワーク利用に萎縮効果をもたらし、
cloud computingのようなイノベーションを阻害する。
Romerが証明したように、経済成長の最大のエンジンはイノベーションなので、
衰退するレコード産業の(GDPの誤差以下の)利益を守るために
情報技術のイノベーションを殺すのは愚かな政策である。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51294287.html