(中略)
■予防行動に重きを置く「日本モデル」
「三密の回避」は、クラスター発生を予防する行動を重視する考え方だ。そこがポイントである。
新型コロナは、感染者全員が等しく他人に感染させるわけではないと考えられている。その代わりに一人の感染者が数多くの人々に感染させてクラスターを作っていく事例も多い。
ネットワーク論の言葉を用いると、「誰もが同じ確率で接触するランダムネットワーク」よりも、スーパー・スプレディング・イベントを通じて偏差のある形で感染が広がっていく「スケールフリー・ネットワーク」こそが感染拡大の元凶になるということだ。少数のハブだけが多くのリンクを持っている広がりなので、その少数のハブを予防することによって、かなり効率的に感染者の母数を減らすことができる(参照「新型コロナの広がり方:再生産数と『密』という大きな発見」)。
接触感染を中心とする「ランダムネットワーク」の要素がないということではない。だが「日本モデル」では、もともとウイルスの撲滅を目指しているわけではない。社会経済活動を維持しながら「リスクをゼロにするのではなく、コントロールしていく」(5月25日安倍首相会見)というアプローチが、「日本モデル」の考え方である。
そうだとすれば、「スケールフリー・ネットワーク」の「少数のハブ」の発生を防ぐことこそが、コロナ対策の戦略の要となる。そしてそれは、国民にまずは「三密の回避」の徹底を呼び掛けるというアプローチだったのである。
PCR検査数の少なさが大きな批判の対象になってきた。
しかし、今までのところ、「何とかして陽性者を見つける」という米国・韓国式のアプローチではなく、「何とかしてクラスターの発生を防いでいく」という「日本モデル」は、機能している。
緊急事態宣言が解除された段階の感染者数が激減した段階で見てみると、クラスターが発生しているのは病院や施設などの特定施設が多くなっているようだ。「三密の回避」を中心にした国民の行動変容によって防ぎたかったクラスターは、防いできているのである。
客観的に言って、新型コロナの「スケールフリー・ネットワーク」型の感染拡大の特性をふまえたうえで、クラスター発生の予防を重視していくというアプローチは、合理的だ。
4月10日の会見で、WHO(世界保健機構)は、日本のクラスター班の発見で「患者の5人に1人からしか、他人には感染させていないことが分かった」ことを称賛した。それもあって5月25日にWHOテドロス事務局長は、「日本でも成功例を見ることができた」と述べたのである。
私はこれまでも繰り返し指摘してきたが、「日本モデル」の最大の弱点は、自分の行動について日本人自身が意識化を図っていないことである。
しかし、「三密の回避」アプローチの広範な普及にもかかわらず、その戦略的意味の意識化を日本人自身が全く行おうとしないのでは、「日本モデル」が非常にミステリアスなものとして取り扱われるのも無理はない。
日本のマスコミは、話題性のある著名人による威勢のいい政府批判の発言などばかりを追いかけて、物事を分析することを全くしない。
それどころか「日本モデル」の分析をするだけで、「日本特殊論はやめろ!日本は何も優れていない!欧米や韓国を尊敬するべきだ!」というバブル時代に現役だったシニア世代の「羹に懲りて膾を吹く」方式のイデオロギー的な声にさらされてしまう。
一部の積極的に発言をしている科学者「専門家」層にも問題がある。欧米の取り組みと比較して違っているところがあると、それを日本の欠点と考える、という傾向が強すぎる。
国際政治学者と違って、科学分野では、欧米人以外の人々との国際交流が希薄なのだろう。しかも欧米においても、感染症の研究ができる大学研究機関の数は相当に限られているようだ。
その狭い視野の中で覚えた杓子定規の考え方を一方的にあてはめるやり方は、それぞれの社会の状況を踏まえていないという点において、そして新型コロナがいまだ未知のウイルスであるという点において、大きな限界を露呈しているように感じる。
続きはソースで
https://amd.c.yimg.jp/amd/20200528-00072894-gendaibiz-000-1-view.jpg
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72894?page=4