今回、新たな研究により、心配事がまた1つ増えてしまった。タイセイヨウセミクジラの体格は、近い仲間で南半球に生息するミナミセミクジラ(Eubalaena australis)に比べ、かなり悪いようなのだ。論文は4月23日付けで学術誌「Marine Ecology Progress Series」に発表された。
両者は生息域が異なり、ミナミセミクジラは赤道以南の比較的静かな海域を好む一方で、タイセイヨウセミクジラは北米東部沖の船舶が多く行き来する海域にすむ。しかし、遺伝的にはよく似ていて、同じような不幸な歴史をたどっている。
体長約15メートル、体重約70トンにもなるセミクジラは、英語で「適切なクジラ(Right Whale)」と呼ばれる。泳ぎが遅く、岸の近くにいて、銛(もり)が当たると浮き上がってくるため、捕鯨に適した(right)クジラだというのが由来だ。
セミクジラ属は、タイセイヨウセミクジラ、ミナミセミクジラ、北太平洋に生息するセミクジラ(Eubalaena japonica)の3種からなる。11世紀から20世紀にかけて行われた捕鯨によって3種すべてのセミクジラが激減しており、もとの個体数の5%まで減少してしまった種もある。
1935年に国際連盟がすべてのセミクジラの捕獲を禁止して以来、ミナミセミクジラの個体数は順調に回復している。現在の個体数は1万頭以上で、かなりのペースで増加しており、一部の群れでは1年ごとに7%も増えている。国際自然保護連合(IUCN)はミナミセミクジラを、近い将来に絶滅する見込みが低い「低危険種(Least Concern)」に分類している。
一方、1990年には270頭まで減少していたタイセイヨウセミクジラの個体数も、2010年には483頭まで回復していた。しかし、船と衝突したり漁具に絡まったりして、この10年で個体数が再び減少している。(参考記事:「相次ぐ絶滅危惧セミクジラの不自然死、残り400頭」)
デンマーク、オーフス大学高等研究所の海洋生態生理学者で、ナショナル ジオグラフィック協会から資金提供を受けているフレドリック・クリスチャンセン氏は、2種のクジラの明暗が分かれた理由を探るため、ドローンを使って上空からクジラを撮影し、体格を比較した。
「衝撃的な痩せかたでした」と、タイセイヨウセミクジラが痩せ細っていることに気づいたクリスチャンセン氏は言う。対照的に、ミナミセミクジラは「背中が広々としていて、テントを張ることもできそうでした」
クジラの体格の悪さは、漁具を引きずることによる疲労などが原因であると考えられる。繁殖が遅いのはそのせいだろうと論文の著者らは指摘する。
「タイセイヨウセミクジラが種のレベルで問題を抱えていることはわかっていました」と、論文の共著者で米アンダーソン・キャボット海洋生物センターのクジラ研究チームを率いるピーター・コークロン氏は言う。
「けれども今回の研究で、個体レベルでも問題を抱えていることがわかりました。大規模な介入がなければ、20年後にはいなくなってしまうでしょう」
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