Oct. 17, 2019, 05:00 AM
https://www.businessinsider.jp/post-200762
10月8日、一つの大学院大学の発表が注目を集めた。
沖縄県恩納村にある沖縄科学技術大学院大学、通称OISTがバクテリアを利用した低コストの排水処理装置の製造を目的とした大学発スタートアップ企業、BioAlchemyの設立を発表した。
OISTの設立は8年前。今、急成長を遂げており、アカデミアの世界では脚光を浴びている私立大学だ。2019年6月にはイギリスのシュプリンガー・ネイチャー社が発表した質の高い論文の割合が高い研究機関ランキングで東京大学の40位を上回る日本トップの9位にも選出された。
同大学院広報は「こういったランキングが出たことで、対外的にOISTの成功をアピールする指標が得られたと思っています」と話す。
急成長支える潤沢な研究資金
OISTが設立からたった8年でここまでの成功を納めた理由は、なんといってもその豊富な資金力にある。予算の大部分は、沖縄科学技術大学院大学学園法によって定められた補助金によるものだ。
この潤沢な資金を武器に、OISTは創設時から世界トップレベルの研究機関を目指してきた。
在籍する研究者は74人。うち、外国人は44名。出身国は15カ国以上にのぼる。
また、理事には、素粒子の一つである「クォーク」に関する研究で1990年にノーベル物理学賞を受賞したジェローム・フリードマン博士や、細胞の表面についた「イオンチャネル」と呼ばれるタンパク質の機能に関する研究で1991年にノーベル生理学・医学賞を受賞したエルヴィン・ネーアー博士などが名を連ねている。
OISTではこうした世界的に著名な研究者や最先端分野の研究者の招聘(しょうへい)、大学への設備投資を進めてきた。この補助金は研究費としても利用されている。
2018年度は、大学の運営費や研究費など含めた約200億円が補助金で賄われた。
「いくら必要ですか?」
研究費をいわゆる「科研費」だけに頼らない構造は、研究者にとって非常にやりやすい。
科研費は、いわば「研究プロジェクト」に対してつく予算だ。そのため、申請時に具体的な実験方法や必要な実験装置、細かい実験プランなどを説明する書類をつくらなければならない。こういった研究以外の作業量の多さは、多くの研究者たちの悩みの種となっている。
仮に科研費を獲得できても用途が限られる場合も多い。さらに、毎年研究の進捗状況を報告する必要があるため、どうしても短期的に結果が出やすい研究が多くなってしまう。
その結果、目的がわかりやすい応用的な研究は発展しやすい一方で、芽が出るまでに時間のかかる基礎研究や、研究者の想像力を活かした挑戦的な研究に取り組みにくい環境が醸成されてしまった。
OISTの研究費は、研究プロジェクトではなく研究者につく予算だといえる。
国立大学からOISTに来たA教授は、次のように話す。
「一番驚いたのは、最初に『自分の力を一番発揮するには、いくら必要ですか?』と聞かれたことです。結果的に私の研究室の研究費総額は、以前よりやや多くなった程度でしたが、大型の基礎研究をやりやすくなりました。
すべてを科研費でまかなおうとすると、2〜3年で成果を出さなければ次の申請が通りにくくなるなど、長期的な研究の展望を描きにくかった点が大きなストレスでした。OISTでももちろん成果を出さなければなりませんが、5〜6年単位で研究費が保証されているので、思い切って研究することができます。安心感がまったくちがいます」