■カエルやイモリを脅かす「殺し屋」による被害状況が最新研究で明らかに

その「殺し屋」は、数十年前から世界中の両生類を死に至らしめてきた。このほど、41人の科学者からなる国際研究チームが、人間が知らないうちに世界中に拡散させてしまった病原体が、両生類の多様性に及ぼした莫大な影響を明らかにした。

 3月29日付け学術誌「サイエンス」に発表されたこの研究は、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)とイモリツボカビ(Batrachochytrium salamandrivorans)がもたらした被害を初めて包括的にまとめたものだ。論文によると、ツボカビが原因で、少なくとも501種の両生類が減少しているという。これは、現在知られている両生類のおよそ15分の1の種数に相当する。

 ツボカビの被害が確認された501種のうち、90種は野生下で絶滅したか、絶滅したと推定されている。別の124種は個体数が90%以上減少した。イモリツボカビによる被害が1種、残りすべてがカエルツボカビを原因としていた。

 研究チームを率いたオーストラリア国立大学の生態学者ベン・シーレ氏は、「ツボカビの脅威は認識していましたが、これほどまでとは思っていませんでした。前回の推定よりはるかに悪い結果になりました」と言う。「ツボカビによる影響は、ネズミやネコが両生類に及ぼした影響に匹敵する規模だったのです」

シーレ氏はツボカビによる大虐殺を目の当たりにしたことがある。彼が野外調査を行うオーストラリアのある場所では、エル・ニーニョが続いてカエルが大発生し、カエルツボカビもこれまでにないほど拡散した。ツボカビ症が広まるまでは、アマガエル科のアルパイン・ツリー・フロッグが非常に多く見られ、夜間に外出するときにはカエルを踏まないように足元に注意しなければならないほどだった。しかし、今ではこのカエルはほとんど見つからないという。

 この状況にショックを受けたシーレ氏は、ツボカビによる被害を数値化しようと決意した。4年の歳月と数えきれないほどのメールでのやりとりの後、彼らはついに、ツボカビによる被害報告を1つのデータベースにまとめた。

「サイエンス」でこの研究を紹介する記事を書いたカナダ、サイモンフレーザー大学の生物学者ウェンディ・ペイレン氏は、「ツボカビは、これまで科学者が調べてきた病原体の中で最もたちの悪いものでした。これは衝撃的な発見です」と言う。

今回の推定はまだ控えめな数字だ。1950年代と1960年代にヨーロッパと北米で見られた両生類の大量死は、証拠が不足しているとして算入されていない。さらに、今回個体数の減少が確認された501種は、科学者にとって既知のものだけだ。新種のカエルは、野生絶滅に近い状況にあるものを含め、続々と発見されている。

 論文著者らは、この研究がきっかけになって、ツボカビ症への対策が本格的に動き出すことを期待している。両生類の売買を規制し、生息地を保護し、両生類を脅かす外来種を駆除し、飼育下繁殖を支援するといった対策だ。

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ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/033000195/