私たちの住む天の川銀河について、意外にもその正確な質量ははっきりとわかっていない。これまで数十年にわたりさまざまな研究から求められた数値は太陽の5000億倍〜3兆倍と広い範囲にわたり、年々精度が上がるにしたがってこの範囲の中間付近に収束しつつある。
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これほど数値がばらついている理由は、銀河の質量の9割を占める「ダークマター」の分布の計測方法の違いにある。「ダークマターを直接検出することはできません。見えないものを正確に計測することはできないので、天の川銀河の質量の値もこれまで曖昧なままでした」(ヨーロッパ南天天文台 Laura Watkinsさん)。

天の川銀河と、研究に使用された球状星団の位置を示すイラスト
天の川銀河の円盤部をとりまく球状星団(黄色い点)の動きから、銀河全体の質量が求められた(提供:ESA/Hubble, NASA, L. Calcada)

Watkinsさんたちの研究チームでは、銀河の円盤部から遠く離れてその周囲を回る「球状星団」に着目した。位置天文衛星「ガイア」がとらえた、6万5000光年彼方までの球状星団34個と、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、13万光年までの遠方の球状星団12個の速度データから天の川銀河の質量を割り出すことにしたのだ。

「銀河の質量が大きいほど、その重力で星団の移動速度は速くなります。これまでに行われた観測のほとんどでは、星団が地球から離れたり近づいたりする速度(視線速度)が得られるにとどまっていましたが、わたしたちが星団の横方向への動きを計測することができました。それらのデータを総合して、より信頼度の高い速度(重力による加速)から、銀河の質量を計算することができます」(英・ケンブリッジ大学 N. Wyn Evansさん)。

球状星団「NGC 5466」
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、およそ5万2000光年彼方の球状星団「NGC 5466」(左)と、枠内の星々の10年間での動き(右)(提供:NASA, ESA and S.T. Sohn and J. DePasquale(STScI))

Watkinsさんらの研究の結果、天の川銀河の質量の値は太陽質量の約1.5兆倍と求められた。天の川銀河を輝かせる2000億個の恒星、および銀河中心の巨大ブラックホール(太陽の400万倍の質量)は銀河の全質量の数パーセントを占めるにすぎず、残りは全て目に見えないダークマターだ。

銀河内に含まれるダークマターの量とその分布は、宇宙の様々な構造の形成とその成長に深く結びついている。今回、天の川銀河の質量が正確に決定されたことで、この銀河が宇宙においてどのような存在なのかがよりはっきりするだろう。

■ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、およそ5万2000光年彼方の球状星団「NGC 5466」(左)と、枠内の星々の10年間での動き(右)
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アストロアーツ
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