今月22日に小惑星リュウグウへの着陸に挑む探査機「はやぶさ2」は、綿密に練られた地上からの指示によって運用され、順調な旅を続けてきた。その指示を正しく探査機へ送る「運用支援者」を担うのが、NECネッツエスアイ(東京都文京区)の深野佳代さん(30)、石出大輔さん(37)ら4人だ。指令が正しく送られなければトラブルにつながりかねない「運用最前線」に立つ。2人は「緊張の連続だが、焦らず確実に正しいコマンドをはやぶさ2へ届けることで、着陸を成功させたい」と話す。

 同社は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の歴代の衛星や探査機の運用支援者を担当してきた。はやぶさ2には深野さんら4人が配属され、2014年の打ち上げ以降、すべてのコマンドを4人が送っている。

 コマンドとは、探査機に「この機器の電源をオン(オフ)にしろ」「カメラのシャッターを切れ」「何時何分にエンジンをこのくらい噴け」などと命じる指令のこと。運用支援者は相模原市にある管制室中央の席に座り、日々の運用を取り仕切るプロジェクトチームのスーパーバイザーの指示のもとでコマンドを送信する。

 運用支援者が送ったコマンドは地上の大型パラボラアンテナを経て探査機へ届き、コマンドを受け取った探査機は、指示に従ってどう動いたかなど探査機の状態を知らせる「返事」を地上のアンテナへ送り返す。その「返事」は、まず管制室の運用支援者のコンピューターに戻ってくる。つまり、運用支援者が「地球ではやぶさ2の最も近くにいる人」といえるだろう。

■はや2の「返事」に応じた次の動きに即対応

 最も気を使うのは、送信するコマンドの正確性だ。もし誤ったコマンドを送れば、探査機が想定しない動きをすることになり、故障やトラブルに直結してしまうからだ。このため、コマンドを送信する前に、必ずスーパーバイザーの意図を正しく理解しているか、送信するコマンドが間違っていないかを一つずつ確認し、エンターキーを押す。探査機の命運を握る役割だ。

 探査機からの「返事」にも細心の注意を払い、「返事」に応じた次の動きに即座に対応できるように備える。ミッションが成功して周囲が盛り上がったり、難しい局面で議論が起きたりしている場合も、「私たちは目の前のコマンドだけに集中する。常に、次に何をすべきかを考えている」(深野さん)という。

 これまでに最も多いときは、12時間の担当時間中に4000個もコマンドも送った。石出さんは「私たちの仕事は、はやぶさ2にコマンドを確実に届けること。コンピューターの設定値などの指さし確認を励行するとともに、私たちがはやぶさ2へ正しいコマンドを送る『最後のゲート』だと肝に銘じ、たとえミスがあったとしても自分たちのところで見逃さないように注意している」と話す。指示されたコマンドが「おかしいな」と気付き、確認した結果、修正したこともあるという。

■緊張した場面は数え切れず 佐久の天候も目配り

 緊張した場面は数え切れないというが、中でも記憶に残っているのが、昨年9月に実施した小惑星へ降下するリハーサルで、高度が把握できなくなってリハーサルが中止になったとき。ちょうど担当だった深野さんは「周囲がざわつき、皆が神経をとがらせていた。降下中止後の手順は事前に準備していたが、降下するための手順から頭を切り替えてコマンドを打つとき、かなり神経をつかった」と振り返る。

 運用支援者の机には、コマンドを送るための端末のほか、長野県佐久市の雨雲や雷、風速をチェックする端末も置かれている。地球から3億キロ以上も離れているはやぶさ2との交信は、片道約20分、往復約40分かかる。佐久市には探査機と交信する大型アンテナがあり、そこへ台風や厚い雲が来ると、はやぶさ2からの電波を十分に受信できなくなる恐れがある。そこで、運用支援者は常に佐久市付近の天候に目を配り、「早めにコマンドを送りきった方がいい」「(はやぶさ2のデータが)返ってくるときに厚い雲がかかる可能性があるので、今はやめたほうがいい」などの提案をするという。

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毎日新聞
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