■「おかしな臭いがしていたんです」と研究者、卵による驚きの防御術

ハチの毒針は、敵から身を守る強力な武器だ。しかし、その卵は柔らかくて細長く、動けもしないので、カビにやられればひとたまりもない。

 ところが、ハチの仲間であるオオツチスガリモドキ(Philanthus triangulum)の卵が、驚きの方法でみずからを守るという研究結果が発表された。生けるガス弾よろしく、抗菌ガスを放出して、巣がカビるのを防ぐという。この論文は、査読前の論文を発表するサイト「BioRxiv」に投稿された。

 オオツチスガリモドキは単独で生活する寄生バチだ。メスはまずミツバチを捕らえ、体を麻痺させる毒を注入し、動かなくなってから土の中の巣穴に引きずり込む。そして、ミツバチに卵を産み付け、孵化した幼虫はミツバチを食べて成長する。

 こう書くと、巣には何の困難もないようだが、そうではない。巣穴は身を隠すのに適していても、暖かくてじめじめしているので、カビの温床になりやすいのだ。

■観察ケージを開けてみると

 ドイツ、レーゲンスブルク大学の生物学者エアハルト・シュトローム氏は、30年以上にわたってオオツチスガリモドキを育て、寄生的な繁殖サイクルを観察してきた。その研究室で、シュトローム氏はある日、妙なことに気がついた。オオツチスガリモドキの卵がどうも臭うのだ。

「観察ケージを開けると、卵からおかしな臭いがしていたんです」。塩素剤を入れたプールのような臭いだったので、何か強い酸化(殺菌)剤でも入っているのかと思ったという。

 そこで、詳しく調べてみることにした。麻痺させられて卵を産み付けられたセイヨウミツバチ(Apis mellifera)と、産み付けられていないミツバチを比較してみたところ、前者のハチの方は長い間カビが生えなかった。つまり、卵が何か特別なことをしているようだった。

 今度は、ミツバチと卵を同じ巣の中に接触しないように置いたところ、やはりカビは生えなかった。シュトローム氏の鼻が感じた通り、卵の武器は空気中を漂うらしい。

 次に研究チームは、この気体の正体を調べてみた。きつい臭いの原因は、二酸化窒素(NO2)の可能性があった。二酸化窒素の前駆体である一酸化窒素(NO)を作り出す生物は多い。そして一酸化窒素は、空気中で酸素と反応すると、つんとした臭いの二酸化窒素に変化する。

 一酸化窒素は、免疫反応から心臓の調節まですべてにおいて重要な働きをする。さらに、量を調節すれば有効な抗菌剤にもなる。

 研究チームは、窒素酸化物を検出できる試薬を卵にスプレーした。もし窒素酸化物が存在すれば、赤い蛍光を発する薬品だ。すると思った通り、産み付けられたばかりの卵は鮮やかな赤い光を放った。

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