【2月5日 AFP】
腸内細菌は人の精神的な健康に影響を及ぼす可能性があり、うつ病に関連すると考えられるとの研究論文が4日、英科学誌ネイチャー・マイクロバイオロジー(Nature Microbiology)に発表された。この種のものとしては過去最大規模となる調査に基づく結果だという。

 世界保健機関(WHO)によると、うつ病は推定患者数が3億人に上り、患者の心身の健康状態と関連があることが知られている。

 今回の研究を行ったベルギーの科学者チームは、多種多様な腸内細菌が脳に有意な影響を及ぼす化学物質を生成する可能性があると考えている。腸内細菌の中には、心の健康とプラスまたはマイナスに関連する数種類の微生物が含まれているという。

「フランドル腸内細菌叢(そう)プロジェクト(Flemish Gut Flora Project)」として知られる実験では、1000人以上のうつ病データと便サンプルを分析した結果、うつ病患者の体内で2種類の細菌が「恒常的に不足」していることが明らかになった。この結果は、患者が抗うつ薬を服用している場合でも当てはまった。

 腸内と脳がどのように関連しているかに関する科学者らの理解はまだ初期段階にあり、今回の研究結果は議論の余地があるとみなされる可能性があることを、研究チームは認めている。

 研究を率いたベルギー・ルーベンカトリック大学(KU Leuven university)細菌学・免疫学部のイェルン・ラース(Jeroen Raes)氏は「細菌代謝産物が人の脳、すなわち行動や感情と相互作用する可能性があるとする説には興味をかき立てられる」と話す。

「これまでの研究の大半はマウスや小規模のヒト集団を対象とするもので、結論が一致せず相反する結果が得られていた」と、ラース氏はAFPの取材に語った。

 研究チームは、オランダで行われた調査の参加者1063人とベルギーの臨床的うつ病患者グループに対して同じ分析を実施し、同様の結果を得た。

 ただ、今回の実験は特定の腸内細菌の濃度と個人の精神衛生との間の明らかな関連性を示しているものの、一方が他方の直接的な原因となっていることを意味するわけではないと、ラース氏は強調した。

 この2種類の細菌群、コプロコッカス属(coprococcus)とディアリスター属(dialister)は抗炎症特性を持つことが知られている。

「うつ病では、神経炎症が重要な役割を果たすことも知られている。そのためわれわれは、これら二つが何らかの形で関連するとの仮説を立てている」と、ラース氏は説明した。

■「薬としての細菌」

 治療可能だが衰弱性の疾患であるうつ病は、個人の行動や感情に影響を及ぼす。「静かな流行病」と呼ばれることもあり、毎年世界で発生している約80万件の自殺の一大要因となっている。

 抗うつ薬は現在、多くの国々で最も一般的な処方薬となっているが、ラース氏は自身のチームの研究が、うつ病に対するより賢明な新治療法の開発に向けた道を開く可能性があると指摘している。

「ヒト由来の細菌を混合したものを治療薬として利用することは『薬としての細菌』とよく言われるが、ここに将来性があると私は本気で考えている」と、ラース氏は述べた。

 研究チームは、腸内細菌500種類以上のゲノム(全遺伝情報)を調査し、一連の神経刺激性化合物を生成するための各細菌の能力を分析した。神経刺激性化合物は、脳機能に影響を与えることが判明している化学物質。

 その結果、さまざまな種類の精神機能に関連する化合物を生成する能力を持つ腸内細菌が数種類見つかった。(c)AFP

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