【2月6日 AFP】生理学研究所(National Institute for Physiological Sciences)の平林真澄(Masumi Hirabayashi)准教授らは6日、マウスの幹細胞を使い、ラットの胚の中でマウスの腎臓を作製することに成功したと発表した。この技術が将来、移植用のヒトの腎臓作製実現につながる可能性があるという。

 だが、今回の成功は初めの一歩にすぎず、ヒトの臓器に応用できるようになるまでには「重大な技術上の障壁および複雑な倫理上の問題」が残っていると、研究者らは注意を促している。

 今回の技術は過去にも、ラットの体内でマウス由来の膵臓(すいぞう)を作製する研究に用いられたことがある。だが、最新の研究はこの技術が将来、腎移植ドナー不足問題の解決策となる可能性があることを初めて証明した。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表された今回の研究は、腎臓の作製を可能にする適切な「宿主」を作ることから始まった。

 研究チームは、遺伝子操作で腎臓を作れないようにしたラットの胚に、マウスの多能性幹細胞を注入。この胚をラットの子宮に移植し、子どもを産ませた。多能性幹細胞は一種の「万能」細胞で、体を構成するあらゆる細胞や組織に分化できる。

 この結果、研究者らは、マウス由来の幹細胞からラットの体内で、機能的とみられる腎臓を作ることに成功した。

 だが、同様の遺伝子操作をしたマウスの胚にラット由来の幹細胞を注入しても、同様の結果は得られなかった。

■嗅覚が奪われ短命に

 研究を指揮した平林准教授はAFPの取材に対し、「ラットの幹細胞は、腎臓の形成に必要となる2種類の主要な細胞へ簡単には分化しなかった」と話す。逆に「マウスの幹細胞は効果的に分化し、腎臓の基本構造を形成した」

 このような差が生じる理由はまだ完全には明らかになっていないが、幹細胞や技術上の理由ではなく、マウス体内の「環境因子」が原因となっている可能性が高いと、研究チームは考えている。

 だが、ラットの胚も問題がないわけではなかった。

 尿管(腎臓とぼうこうをつなぐ管)に正常に接続されるなど機能的とみられる腎臓が作られたものの、生後間もなく死んでしまった。胎内で腎臓を発育させる遺伝子を除去することで嗅覚も奪われたとみられ、母乳が探せずに飲むことができなかったためだ。

 短命だったことで、腎機能に対する検査は限られたものとなったが、「解剖学的観察に基づき」腎臓は機能していたと思われると、平林准教授は説明した。

 また、別の動物種の宿主で腎臓を作製すると、臓器が宿主の細胞によって「汚染」される可能性もあるという懸念も存在する。

■倫理上の問題

 ヒトの臓器を動物の体内で作ることは、倫理上の大きな問題も引き起こす。ヒトの幹細胞が宿主の脳や生殖器細胞に分化する可能性があるためだ。

「主な倫理的懸念は、意識や配偶子(生殖細胞)が作られる危険性があることだ」と、平林准教授は指摘し、「ヒトの臓器を動物の体内で作製する前に、重大な技術上の障壁や複雑な倫理上の問題が議論されなければならない」と続けた。

 ブタは通常、ヒトの臓器再生に最適な宿主だとみなされているが、ヒトの妊娠期間が40週であるのと異なり、ブタの妊娠期間は25週間にとどまる。このため、ブタは人間の臓器の作製に適していないかもしれない。ウシは妊娠期間が40週のため、より適している可能性がある。

 平林准教授は、自分が生きている間に、動物の宿主内で作製されたヒト臓器を目にすることを期待している。

「自分の寿命がいつ終わるか正確には分からない――明日かもしれないし、30年後かもしれない。だが、動物を宿主とする臓器の作製が実用化されるニュースを心待ちにしている。 (c)AFP

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