シロアリが、危機に陥った熱帯雨林を守る「保険」のような役割を果たしていることが、最新の研究で明らかになった。
シロアリは、森の掃除屋として落ち葉を食べ、トンネルを掘って土壌を換気し、生態系全体の「土木工事」を請け負っている。しかし、森の健全な機能を維持するうえで、どれほど重要な役割を果たしているかは、これまで正確にはわかっていなかった。
英ヨーク大学の昆虫学者ハンナ・グリフィス氏の研究チームは、ボルネオ島、マリアウ盆地の特定の区域からシロアリを排除し、その影響を観察することでシロアリの役割を解明。研究成果を1月11日付けの学術誌「サイエンス」に発表した。
グリフィス氏らが実験を始めたのは、偶然にも2015年から2016年にかけての時期。エルニーニョ現象が発生し、森が極度の干ばつに見舞われていたときのことだった。研究チームが発見したのは意外な事実だった。シロアリが例年の2倍近くに大繁殖し、干ばつに見舞われた森を健全に保つ役割を果たしていることがわかった。シロアリが多い場所では、土壌の湿度が保たれ、より多くの若木が芽吹き、長期にわたる厳しい干ばつにもかかわらず、生態系に異常が見られなかったのだ。
「シロアリは、生態系にとって保険のようなものです」と、グリフィス氏は話す。結果としてシロアリは、気候変動のプレッシャーから森を守っているという。
■シロアリのいない区画と比較
シロアリの評判は悪い。米国では毎年、巨額のシロアリ被害が報じられ、インドの銀行では文字通りお金が食べられてしまったこともある。業界全体をあげてシロアリ駆除を目指す産業もある。
しかしシロアリは、多くの自然の生態系において重要な役割を果たしている。熱帯林の落ち葉や枯れ木を食べて分解し、栄養を生態系に還元して、他の動植物が利用できるようにしていることは、何年も前から知られていた。だが、その役割を正確に解き明かすのは困難だった。森に積もった枯れ葉などを分解しているのは、シロアリなのか、あるいは土壌の微生物やアリなのか、またはそれらすべての共同作業なのかを判別できなかったからだ。
グリフィス氏の研究チームは、シロアリ以外の生物は一切食べない毒入りのセルロースをまくことで、森の中から局所的にシロアリの数だけを抑制した。「本当にトイレットペーパーのようなものです」と同氏は話す。このセルロースをまいた後には、シロアリがほとんどいない生態系が残る。これを通常の生態系と比較することで、シロアリの正確な役割を解明した。
干ばつが起きなかった年には、通常の区画とシロアリを抑制した区画との間に、大きな違いは見られなかった。しかし、干ばつが起きると、その差は歴然だった。落ち葉を食べるシロアリが多い区画では、土壌は乾燥せず、若木が芽吹き、森は過去20年で最悪の干ばつにもビクともしなかった。
「シロアリは、気候変動の影響を軽減する緩衝材のような役割を担ってくれるのです」と、米プリンストン大学の生態学者ロブ・プリングル氏は話す。なお、同氏は今回の研究には関与していない。
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ナショナルジオグラフィック日本版サイト
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