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2)因果関係証明の限界

 「風が吹いたら桶屋が儲かる」

ということわざがある。では桶屋が儲かった時は風のお陰なのだ、ということを証明できるだろうか。桶屋の営業努力かもしれないし、空き家が増えてネズミが増えただけかもしれない。別の桶屋が倒産したかもしれない。

 同じように、今例えば福島県の住民がんになった場合、それが「原発の放射能による増加なのか」ということを証明することは難しい。特にがんは色々な要因で起きるため、もし原発の後に起きても、「原発のストレスによって起きたがん」かもしれないし、「原発後にやけ酒を飲んだせいで起きたがん」「外へ出ず運動をしなくなったせいで起きたがん」かもしれない。また、まったく関係なく「日本人の2人に1人ががんになるから」という可能性も十分にある。これを放射能のせい、と断定することは非常に難しいのである。
 
 少し難しい話になるが、疫学の世界では、A(原発事故)という事象の後にB(甲状腺がん)という事象が起きたときに、因果関係はどのように証明されるのか。

 因果関係の判断基準で一番有名なものは「Hillの基準」というもので、以下の9項目を検討するものだ。

1. 関連の強さ :原発事故と甲状腺がんがどの程度強力に関連しているか
2. 一貫性:色々な手法でデータが集められているか
3. 時間的関係
4. 生物学的容量反応勾配:量が増えた時に効果も大きくなっているのか
5. 特異性:Bの原因としてA以外のものが考え難いか
6. 生物学的説得性:AがBを起こすことは生物学的に納得がいくか
7. 整合性:AがBを起こすことは論理的に矛盾しないか
8. 実験・データの質
9. 類似性:過去に類似した報告がなされているか

 このHillの基準を用いて福島のがんを検討するとどうなるだろうか。事故の前と今とでは何倍増えているかわからないので、事故とがんの関連の強さを判定できないため、1や3の項目は満たさない。住民の被ばく量データが正確ではないので、4も証明は難しい。放射線以外にも癌の誘因があるため6も困難。がんのデータベースすら作られていないので、2や8はこれからの課題である。
 
 とすると、因果関係があると「科学的に」主張するためには、6の生物学的説得性(放射能でがんになりえる、という理屈)と9の類似性(チェルノブイリの先例がある、という事実)で勝負するしかない。つまり、既存のデータは、福島の放射線ががんを引き起こしたという因果関係を示すには十分でないのである。
 
 誤解のないように言うが、「因果関係を示すに十分な情報がない」ということと、「因果関係がある・ない」ということは別物である。つまり、たとえば福島の子供たちの間で原発事故による甲状腺がんが増えているかどうか、ということに関しては、今どんなに議論を尽くしても、結論は出ないのである。

続きはソースで

https://ironna.jp/article/2471