7000年前から採掘されてきたこの塩鉱山は、塩の安定供給をもたらしてきただけではなく、一連の考古学的発見により、紀元前10世紀間の初期にまでさかのぼる豊かな文明の存在を裏付けている。

 考古学者ハンス・レシュライター(Hans Reschreiter)氏によると、有史以前のトンネル網でこれまでに探査が完了しているのは全体の2%以下で、昨年8月に新規の補強工事が始まったところだ。

 ハルシュタットは1997年に国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産に指定された。アルプスの景観を目当てに訪れる観光客でにぎわう自然湖を見下ろすハルシュタット岩塩抗は、標高800メートル超に位置する。その内部に眠る膨大な量の海塩を残した大海がこの地域を覆っていたのは、約2億5000万年前だった。

■築3000年の階段

 考古学的発見として最も特筆すべきものは、紀元前1100年にさかのぼる長さ8メートルの木製の階段だ。欧州で発見された同種の階段としては最古のものだ。

 さらに以前にさかのぼる出土品もある。1838年には紀元前5000年に鹿の骨から作られたおのが発見され、古代から人々が「ここから塩を掘り出そうと苦心していた」ことがうかがえる。

 19世紀半ばの発掘では、鉄器時代初期にこの岩塩抗が突出した存在だったことを示す共同墓地が発見された。その文明は「ハルシュタット文化」として知られるようになり、この地の名声を確実にした。

 レシュライター氏によると、墓からは数千体分の遺骸が発掘され、そのほぼすべてが、最も裕福な層が身に着けるブロンズの装飾を身に着けていた。しかし、中には幼少期からの過酷な肉体労働の痕が残る遺骸もあり、富の不平等が示されていた。

■貴重な「白い黄金」

「白い黄金」として長く知られていた岩塩は、昔は貴重なものだった。ハルシュタットでは毎日最大1トンの塩が採掘されたが、これは「欧州の半分」の需要を満たす供給量だったと、レシュライター氏は指摘する。

 アクセスが困難な位置にあることも手伝って、ハルシュタットは紀元前800年代の欧州大陸で最も裕福で大きな交易の舞台となった。これを裏付けているのが、この地で発見されたアフリカの象牙から作られた剣の柄や、地中海製のワイン用の杯などだ。

 約60年前にオーストリア国立自然史博物館によって開始された第2回目の発掘では、さらに驚くべき品物が見つかった。

 地表下100メートル超のトンネル内で考古学者らが発見したのは、青銅器時代に「産業」規模で行われていた採掘活動の「比類ない証拠」だった。

 塩分によって完全な状態で保存されていた3000年以上前の木製の擁壁(ようへき)構造物を始め、発掘では無数の工具や皮製の手袋、握りこぶしほどの太さのロープ、おびただしいたいまつの残骸などが発見されたのだ。

■今も現役

 ケルト人も使用し、またローマ時代にはドナウ川(River Danube)沿いに駐屯していたローマ軍兵士への給与としても使われていた塩──「塩(sal)」は、「サラリー(salary)」の語源だ──の採掘は、前史時代からやんだことがない。今日でも約40人の作業員が、高圧水を使って年間25万トン相当の塩を抽出している。(c)AFP

http://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/810x540/img_5483d7a586e8fcdbc841a43cd0eafc7e260514.jpg

http://www.afpbb.com/articles/-/3195120