ガン細胞は、人の健康な細胞を利用し、線維芽細胞にガン細胞を守らせ栄養を運ばせます。新たな研究では、ウイルスをガン細胞に感染させることで、ガン細胞を殺すだけでなくガン細胞を守る線維芽細胞も破壊することに成功しました。過去に行われた同様の研究では、健康な細胞までもが攻撃されてしまうという結果が示されていたため、この技術は「革新的」といわれています。

An Oncolytic Virus Expressing a T-cell Engager Simultaneously Targets Cancer and Immunosuppressive Stromal Cells | Cancer Research
http://cancerres.aacrjournals.org/content/early/2018/11/15/0008-5472.CAN-18-1750

Modified virus used to kill cancer cells | University of Oxford
http://www.ox.ac.uk/news/2018-11-20-modified-virus-used-kill-cancer-cells

今回の研究は、イギリスのバイオテクノロジー企業PsiOxusが開発した腫瘍溶解性アデノウイルス製剤「Enadenotucirev」を利用したもの。Enadenotucirevは既にアメリカやヨーロッパでガン治療の臨床試験段階にある治療法で、ウイルスをガン細胞だけに感染させ、健康な細胞を体に残すよう設計されています。

研究者はEnadenotucirevに「感染したガン細胞にBi-specific T-cell engager(BiTE)と呼ばれる融合タンパク質を産出させる」という遺伝子命令を組み込みました。BiTEは、線維芽細胞とT細胞と結びつくタンパク質で、T細胞に線維芽細胞を攻撃させるトリガーとなるものです。

論文の第一著者であるオックスフォード大学のJoshua Freedman氏は「私たちはウイルスの機構をハイジャックし、BiTEがウイルスの感染したガン細胞だけで作られるようにしました。BiTEは、ガンによって抑制された腫瘍の中の免疫細胞を活性化し、線維芽細胞を攻撃し始めるほどにパワフルです」と語りました。

研究に携わった同じくオックスフォード大学のKerry Fisher氏は「腫瘍の中のガン細胞のほとんどが殺されても、線維芽細胞は残ったガン細胞を守り、それらが回復して再び繁栄するのを手助けします。これまでは、体の健康な部分を傷つけることなく、ガン細胞と、それを守る線維芽細胞の両方を同時に攻撃する方法は存在しませんでした」「ガン細胞を殺しながら線維芽細胞もターゲットにする私たちの新しい技術は、腫瘍内における免疫系の抑圧を減らし、標準的な免疫プロセスを始動させるはずのものです」と述べています。

Enadenotucirevは既に臨床試験の段階にあるため、Enadenotucirevに手を加えた今回の技術も、2019年には臨床試験をスタートできる見込みです。

今回の研究は、ガン患者の合意を得て採取された、ガン細胞のサンプルを対象に行われました。これと同時に健康な人の骨髄サンプルを対象にしても実験が行われましたが、T細胞が不適当に活性化されたり、毒性が認められたりすることはなかったといいます。

研究はもともと医用放射線機器安全管理センター(MRC)と王立がん研究基金から資金を受け行われたもの。MRCのNathan Richardson氏は「免疫療法はガン治療の刺激的な新しいアプローチとして広まってきています。ガン細胞とその回りの保護組織の両方をターゲットにするという革新的なこの方法は、現在の方法に耐性ができてしまっているガン患者によい結果をもたらすでしょう」とコメントしました。

また王立がん研究基金のMichelle Lockley氏も「ガンを倒すために体がもとから所有する免疫系を使うという方法は成長中の研究分野です。人間の腫瘍サンプルにおける実験は成功していますが、複雑なものです。免疫療法の大きな課題は、患者の免疫系においてそれがどのようにうまく機能するかを予測すること、そして、どのような副作用が起こるかを理解することにあります。次の臨床試験で、この方法が安全かつ効果的に患者を治療できるかが確かめられることになります」と語りました。

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20181121-modified-virus-kill-cancer-cells/