かつて地球上には多くの恐竜が生息していましたが、約6500万年前に大量絶滅が発生して姿を消しました。K-Pg境界とも呼ばれるこの大量絶滅の原因としてさまざまな説が提唱されていますが、中でも主流なのが「隕石の衝突によって気候変動が発生し、大量の生物が絶滅してしまった」というもの。そんな隕石衝突説を裏付ける証拠が、メキシコのユカタン半島に残っているそうです。

BBC - Travel - The buried secrets of the deadliest location on Earth
http://www.bbc.com/travel/story/20181111-the-buried-secrets-of-the-deadliest-location-on-earth

ユカタン半島の石灰岩地帯には、セノーテと呼ばれる陥没穴に地下水がたまった天然の泉が存在します。セノーテの水は青く光るように見え、ユカタン半島の観光パンフレットにも掲載されている人気の観光スポットとなっているとのこと。マヤ文明にとってセノーテにたまった水は貴重な水源であり、考古学者は古くからセノーテを通じてマヤ文明の理解を深めようと注目していたそうです。

by daryl_mitchell

そんなセノーテが点在するスポットは一見するとランダムに見えますが、考古学者らはメリダ・シサル・プログレソといった都市の周辺に存在するセノーテが、ユカタン半島に海へ円の半分が突き出た円を描くようなパターンになっているのを発見しました。考古学者はこの神秘的なパターンの発見にどう意味を見いだしたものか途方に暮れていましたが、1988年にアカプルコで開催された学会において、衛星写真などを扱う地理学系の研究者たちにこの発見を報告したとのこと。

その発表を、たまたまNasaの若い惑星地質学者であったアドリアーナ・オカンポ氏が聞いていました。オカンポ氏はこのユカタン半島に残る半円のパターンを聞いたとき、ある考えが頭の中に思い浮かびました。「私はあのスライドを見た時、『これは素晴らしい発見だ』と思いました」と語るオカンポ氏は、当時は興奮した状態でありながらもさらなる証拠が必要だと考え、表面上は冷静さを取り繕っていたそうです。

オカンポ氏は発表した考古学者に近づき、「この発見が6500万年前に発生した小惑星の衝突によるものだという可能性を考えましたか?」と尋ねました。ところが、考古学者は困惑してオカンポ氏の言う意味が理解できていなかったとのこと。
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考古学者の発見が隕石衝突の痕跡ではないかというオカンポ氏の推測により、多くの研究者がユカタン半島に残る痕跡に注目するようになり、90年代の初めから国際的な研究チームが調査を開始しました。現在ではユカタン半島の付近に直径12kmもの隕石が衝突し、それによって作られたクレーターの端がセノーテの点在するスポットに対応しているということが明らかになっています。

隕石がぶつかった衝撃で深さ30kmものクレーターを作りだし、大量の灰が地球上を覆い尽くして1年以上も太陽の光を遮ったとのこと。気温は氷点下にまで下がり、地球上に当時生息していた生物の75%が死に絶えたと研究者らは考えています。隕石が衝突した地点にはチクシュルーブ・プエルトという小さな町があったため、衝突した隕石はチクシュルーブ衝突体、クレーターはチクシュルーブ・クレーターとして知られています。

チクシュルーブ・プエルトは人口数千人ほどの小さな町であり、ユカタン半島に数多くある港近くの村といった風情の場所。「恐竜絶滅を引き起こした隕石の衝突地点がチクシュルーブ・プエルトだ」という事実はほとんど知られておらず、時にはチクシュルーブ・プエルトを訪れようとする少数の恐竜愛好家も、間違って自動車で1時間ほど離れたチクシュルーブ・プエブロという町へ行ってしまうことがあるとのこと。

たとえ正しいチクシュルーブ・プエルトにたどり着いたとしても、主要な広場に地元の子どもが描いた恐竜の絵や恐竜を模した遊具があったり、教会前に小さな記念碑があったりするくらいだそうです。2018年9月にはメリダに「チクシュルーブクレーター・サイエンス・ミュージアム」が開設されており、ミュージアムは地元で起きた大量絶滅のきっかけとなったイベントを積極的に周知し、人々の理解を向上させたいとしています。


今のところ地元住民はほとんど6500万年前にその土地で発生した大事件について認識しておらず、セノーテに泳ぎに来る観光客の多くも「石灰岩地帯の陥没穴に水がたまった」程度の理解にとどまる人々がほとんど。オカンポ氏は「この地帯は非常に特殊な場所であり、世界遺産に登録されるに値します」と述べており、今後も周辺住民への教育が必要だと考えています。

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https://gigazine.net/news/20181114-buried-secrets-deadliest-asteroid-location/