大気圏突入の熱と衝撃から中身を守れるか−−。「タイガー魔法瓶」(大阪府門真市)が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発した断熱容器が11日朝、宇宙での実験試料を中に入れた状態で地球に帰還する。国際宇宙ステーション(ISS)から物資を持ち帰る日本初の実験だ。同社の開発メンバーは試行錯誤の末の「究極の魔法瓶」が役目を果たせるか、期待を込めて見守っている。

JAXAが2015年、タイガーに共同開発を持ちかけた。地球帰還時に最大40G(1Gは地球上の重力)かかるため、時速200キロでコンクリートにぶつけても壊れない強度が求められ、中身を取り出すまでの時間を考慮し容器内を4日間以上、4度前後に保つ必要がある。

 「家庭用品メーカーが宇宙事業に関与していいのか」。失敗のリスクを懸念する意見も出たが、「魔法瓶業界の代表として挑戦しよう」と決まった。魔法瓶やステンレスボトルを担当する中井啓司さん(54)ら3人でチームを組み、開発を始めた。

 魔法瓶はステンレスの二重構造で、真空の空間を作って断熱している。回収用の断熱容器も基本は同じ仕組みだが、魔法瓶より大きいため溶接などの精度が落ち、変形もしやすい。設計を何度もやり直し、約1年半後、ステンレスの厚さを4倍にし、真空容器の上に一回り大きな真空容器をふたのように重ねる構造で条件をクリアした。まさに「魔法瓶の究極形態」(同社)となった。JAXAと共に特許を出願したという。

 容器は直径29センチ、高さ34センチ、重さ約10キロ。ISSの無重力環境で結晶化されたたんぱく質を入れ、円すい形の小型回収カプセルに納められている。このカプセルは今月8日、無人補給機「こうのとり」7号機に搭載され、地球に向けて出発した。

こうのとりは大気圏突入前にカプセルを分離し、自身は燃え尽きる。カプセルは11日朝、パラシュートを開いて太平洋の南鳥島近海に着水し、船で回収した後、日本へ運ばれる予定だ。

 ISSには日本の実験棟「きぼう」があるが、成果物を地球に持ち帰るには米露の宇宙船を頼るしかなかった。JAXAは今回の実験を機に日本独自の回収技術を獲得し、将来的には有人輸送への応用も視野に入れる。

 中井さんは「カプセルを無事に帰すのが今回のミッションだが、帰ってきた時がまた新たなスタートライン。この経験を新製品開発などに生かしたい」と実験成功に期待を寄せる。

小型回収カプセルに収納する前の断熱容器=JAXA提供
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毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20181109/k00/00e/040/244000c