■新しい顔が生きる希望をもたらした

 2014年3月25日、当時18歳だったケイティが恋人の携帯電話をのぞくと、そこに別の女の子へのメッセージがあった。問い詰められた恋人は別れを切り出した。傷つき、逆上したケイティは狩猟用の銃を持ち出し、トイレにこもって、自分の顎に銃口を当て、引き金を引いた。

 銃弾は一瞬にして多くのものを奪った。額の一部、鼻、鼻腔、口角をわずかに残して口全体、顎と顔の前面を形作る下顎骨と上顎骨のかなりの部分……。目は残ったが、ゆがんで、ひどい損傷を受けていた。自殺未遂から5週間余り後にオハイオ州クリーブランドのクリニックに転院したとき、ケイティはこうした状態だった。

「今からやりますよ」。2017年5月4日、ケイティの病室に現れた医師のブライアン・ガストマンはそう宣言した。ケイティの顔に残された二つの小さな口角が持ち上がり、笑顔になった。とうとう新しい顔が自分のものになるのだ。

 ドナーの顔面摘出手術が始まって31時間後、表皮の縫合が終わり、顔全体の移植が完了した。集中治療室にいるケイティは、人工呼吸器や点滴のチューブ、さまざまなモニター装置につながれていた。

 手術から2週間ほどたつと、理学療法士がケイティをベッドから起こして、廊下を歩かせ始めた。体は動いていたが、意識はもうろうとしていた。初めて自分の新しい顔に触ったとき、腫れ上がって、まん丸になった感じがした。形成外科医のパペイはかわいい鼻がついたと言ったが、ケイティは気になって母親に尋ねた。もう化け物でも見るように、じろじろと見られない?

■人生が中断された時点に戻って
 2017年8月1日、ケイティは退院し、両親は24時間態勢で介護に当たり、忙しい日々が始まった。退院時に毎日服用する薬を書いた2ページ半にもわたるリストが渡された。壁に掛けた特大のカレンダーには予定がぎっしり書き込まれた。理学療法、作業療法、点字のレッスン、言語療法……。

 言語は特に厄介だった。ケイティの口はほとんどがドナーの口だ。舌と上側の軟口蓋だけが残っているが、それらはうまく機能しない。元の顔の筋肉組織はほぼすべて失われ、ドナーの組織に入れ替えられた。ケイティはそれらの筋肉が動いている感覚がないまま、動かす練習をしなければならない。

 点字の学習も続けているが、スタブルフィールド夫妻はケイティの視力回復を諦めていない。夫妻によると、米ピッツバーグ大学のチームが眼球を丸ごと移植する研究を進めていて、10年以内には実施される見通しだという。

 ケイティは人生が中断された時点に戻って、再出発したいと考えている。まず大学教育を受けること。当初はオンラインで受講するつもりだ。卒業後にカウンセリングの仕事をすることも考えている。「いろいろな人に助けてもらったので、今度は私がほかの人たちを助けたい」。自殺をテーマに10代の若者たちに話をし、命の大切さを伝えていきたいという。

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