スウェーデン王立科学アカデミーは10月8日、2018年のノーベル経済学賞をエール大学のウィリアム・ノードハウス教授(77)とニューヨーク大学のポール・ローマー教授(62)に授与すると発表した。2人の研究に詳しい馬奈木俊介・九州大学主幹教授が解説する。
今年のノーベル経済学賞の受賞テーマは、世界の持続可能で長期的な成長を支える方法のデザインである。2人の貢献は、技術進歩と気候変動の原因と結果について、基礎的な貢献をしたことである。経済成長の光と影を理解して、持続可能で長期的な経済成長を考えるうえで最大の貢献をしたことが評価された。

筆者は大学院で工学を研究後に渡米し、専門を経済学に変えた。そのきっかけが「技術進歩と環境問題をどのように理解して解決できるのか」という問題意識であった。エネルギー産業の技術進歩、資源枯渇、環境問題をテーマに博士論文を書く際には、ノードハウス氏とローマー氏の論文をよく読み、感銘を受けた。そこで、2人が世界に果たした貢献を振り返りたい。

■多大な貢献を果たしたノードハウス氏とローマー氏

気候変動に警鐘を鳴らす功績が評価され、2007年にノーベル平和賞を受賞した「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という組織がある。筆者も代表執筆者として関わった経済学を含む科学者らの組織であるが、ここで用いられる世界経済モデルは、ほぼ全てノードハウス氏の基礎的なモデルに基づいている。温暖化ガスの排出に課税する炭素税の議論を展開していると評価されている。

つまり、ノードハウス氏の貢献は、経済成長とともに二酸化炭素排出量が増加し、気温上昇を伴う気候変動を起こすという側面から、気候変動を長期のマクロ経済モデルに組み入れた点にある。酷暑もあり、災害対策が大きな課題となっている現在、時宜を得たテーマである。

気温上昇に伴い経済活動の生産性が落ち、経済活動に悪影響が生じるという定式化を、気象学のモデルもとらえて「経済―気候」世界統合モデルをはじめて(ざっくりだが重要な内容で)計算している点が新奇的であった。

ノードハウス氏の貢献は、政治にも影響を与えた。「2100年までの気温上昇を、産業革命以前と比較して摂氏2度未満に抑えなければいけない」というアメリカや日本も署名をした法的拘束力のある国際的合意(コペンハーゲン合意、2009年)がある。

ノードハウス氏は41年前の1977年という早い段階で2度以上の気温上昇があった場合に、重大な社会への影響が生じるという論文を発表した。この論文がきっかけとなり、議論が始まったのだ。コペンハーゲン合意ができると、すぐに各地域への影響を発表するなど、常に早い段階で結果を出してきた。これは誰もなしえなかったことである。

■ローマー氏の功績とは?

環境・エネルギーに関する学際的な研究者であれば、誰もが計算面での貢献でノードハウス氏の名前を知っている。その一方で、経済学研究者であれば、誰もが経済理論面での貢献でローマー氏の名前を知っている。

ローマー氏の貢献は、技術進歩が経済に正の影響を及ぼすマクロ経済モデルへの定式化である。組織の意思決定や市場の状況を考慮してどのように技術進歩が起こるかを、1990年の論文にて経済モデルに初めて取り入れた。

「長期的な経済成長」は、『国富論』を著した経済学の父、アダム・スミスの時代から主要なテーマである。この経済成長を分析するための基礎を与える貢献を行ったのはロバート・ソロー氏(1987年ノーベル経済学賞受賞)であった。ここまでの従来の経済成長論では、発展途上国は資本や労働力の投入により一定水準に落ち着くと考えられていた。

ロバート・ルーカス氏(1995年ノーベル経済学賞受賞)が人的資本の蓄積による生産性の向上に注目したのに対し、ローマー氏は、イノベーションが起き、それが持続的な成長を生み出し、知識やアイデアの蓄積度合いにより、国ごとの成長経路が異なることを証明した。

この論文をきっかけに、「内生的成長理論」という一大理論研究のトレンドを作った。政策面においても、どのような政策・規制がイノベーションを促すか、制約を与えるかについて、各国の成長戦略に大きな影響を及ぼした。また、世界銀行の開発援助政策へも、環境問題や教育が重視されるようになり、現実社会への重要な貢献をしている。

続きはソースで

■ノーベル経済学賞を受賞したノードハウス氏(左)とローマー氏
https://tk.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/1140/img_720d3e7e096df42f4fa1276a3a8970c2174077.jpg

東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/242133