宇宙企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏は2018年5月21日、
開発中の有人宇宙船「クルー・ドラゴン」の写真をInstagramで公開した。

クルー・ドラゴンは同社にとって初、また民間企業が自力で開発したものとしても初となる宇宙船で、
国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を運ぶほか、宇宙旅行への活用も目指している。

■クルー・ドラゴン

かつて宇宙飛行といえば、米国航空宇宙局(NASA)など、国の機関が主導する大事業だった。
しかしNASAは2005年、「民間にできるできることは民間に任せる」という方針のもと、
ISSへの補給物資の輸送を、民間企業にアウトソーシングする計画を立ち上げた。

この計画には米国内からさまざまな企業が名乗りを上げ、審査を経て、
最終的に選ばれた2社のうちのひとつがスペースXだった。そして同社は、NASAからの資金提供や技術協力をもとに、
大型ロケット「ファルコン9」と補給船「ドラゴン」を開発。
試験飛行を経て、2012年から現在まで、ISSへの物資補給を定期的に続けている。

そしてNASAはその次の段階として、宇宙飛行士の輸送をも民間に委ねる計画も立ち上げた。
審査の結果、大手航空宇宙メーカーのボーイングとともに、ふたたびスペースXも選ばれた。

スペースXが開発している「クルー・ドラゴン」宇宙船は、ドラゴン補給船をもとに、
宇宙飛行士が乗れるように改良したもので、コクピットにタッチスクリーンが採用されるなど、
先進的な技術がふんだんに取り入れられている。

最大7人の乗員を乗せ、地球とISSとの往復を行うことができる。また月や火星へ飛行できるだけの性能ももつ。

■難航したクルー・ドラゴンの開発

しかし、その開発は難航した。当初は2016年中に無人での初飛行を行い、
2017年から有人飛行が始まる予定だったが、その計画は大幅に遅れることになった。

この遅れは、有人宇宙船を造ることがいかに難しいかを示している。スペースXはNASAと密接に協力し、
また退役した宇宙飛行士を雇うなどして開発を続けてきたが、それでも民間企業が一から宇宙船を、
それもNASAの定める安全基準を満たす宇宙船を開発するのは困難を極めた。

また、スペースXがあまりにも野心的すぎたことも遅れの要因となった。

ロシアの「ソユーズ」など、多くの宇宙船はパラシュートを使って海や草原に着陸している。
しかしパラシュートは風に流されやすく、狙った場所に降ろすことができず、着陸時の衝撃も大きい。

そこでスペースXは、宇宙船に小さなロケットエンジンを装着し、それを噴射しながら着陸させようとした。
同社のロケットは垂直に離着陸できることでおなじみだが、それと同じ仕組みを宇宙船にも取り入れようとしたのである。

これにより、パラシュートのように風に流される心配がなく、マスク氏曰く「ヘリコプター並みの精度で」、
ゆるやかに着陸でき、さらに月や火星など、大気が薄い、あるいは存在しない天体にも着陸できる。
マスク氏は「クルー・ドラゴンは世界で最も進んだ、21世紀の宇宙船だ」と語るほどだった。

しかし、前例のないこの着陸方法に、NASAは安全性の点から懸念を表明。
スペースXは安全であることを証明しようとしたものの、時間やコストの点から断念し、
従来どおりパラシュートで海に着水する方法に変更されることになった。


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動画
SpaceX Dragon V2 | Unveil Event https://youtu.be/yEQrmDoIRO8

ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/x-5.php
続く)