最も権威ある英国の栄養学の本「ヒューマン・ニュートリション(第10版)」(日本語版、医歯薬出版株式会社)には、
「人類の本来の主食は穀物ではないし、まだまだ穀物ベースの食物に適応していない」と明記してあります。私も全く同感です。

 このことを、あるホルモンの特徴から考えてみたいと思います。

 ◇血糖値を下げるホルモン「インクレチン」

 糖尿病の内服薬は、現在7種類あります。その中に「DPP-4阻害剤」という薬があります。
DPP-4阻害剤は、「インクレチン」という消化管ホルモンを血中にとどめる作用があります。

 現在知られているインクレチンは、小腸上部から分泌されるGIPと、小腸下部から分泌されるGLP-1の二つです。
血糖値を低下させるホルモン「インスリン」が膵臓(すいぞう)から分泌されるのを促進します。

 食事によって消化管内に炭水化物や脂肪が流入すると、その刺激を受けてインクレチンが分泌されます。
そして、血糖値の上昇と共に、膵臓のβ細胞からインスリン分泌を増加させ、
α細胞から分泌されて血糖値上昇に働くホルモン「グルカゴン」を抑制します。

 ◇DPP-4阻害剤の働き

 インクレチンは、血中でDPP-4という酵素によって速やかに分解されます。
血中のインクレチンの量が半減する「血中半減期」は、GIPが約5分、GLP-1は約2分と非常に短いことが特徴です。

 そこで登場したのが、DPP-4阻害剤です。
DPP-4の働きを阻害してインクレチンを血中に約24時間存在させ、血糖値の降下作用を発揮させるのです。

 ◇インクレチンが数分で半減する理由

 DPP-4阻害剤は、極めて理論的に構築された、とてもいい薬です。
しかし、根源的な疑問が湧いてきます。なぜ、人体に役立つホルモンが、わずか数分で半分に分解されてしまうのでしょうか。

 一番リーズナブルな説明は、人類にとってインクレチンは、食後約2〜5分程度働けば十分だったということでしょう。

 農耕を始める前の人類は、約700万年間も狩猟・採集をして生きてきました。
魚介類、小動物・動物の肉や内臓や骨髄、野草、野菜、キノコ、海藻、昆虫などが日常的な食料で、
木の実、ナッツ、果物、山芋なども時々食べていたと考えられています。

 穀物のような血糖値が上がりやすい物を日常的に食べていないのですから、
インクレチンが常時活性化している必然性はないのです。
インクレチンが数分で分解されるという生理学的事実は、主食が穀物(糖質)ではない状況で、
人類が進化してきたことの証拠といえるのだと思います。

 ◇700万年間の進化の重み

 農耕が始まり、穀物を常食にするようになると、食後血糖値の上昇が日常的に生じるようになります。
こうなると、インクレチンに大いに活躍してほしいところです。

 しかし、さすがに700万年間の進化の重みがあるのでしょう。
穀物が主食になった4000〜1万年ぐらいの歴史では、
DPP-4がすぐに分解してしまう体内の“癖”を変えるような突然変異は起こらなかったのだと思われます。

 ◇「生活習慣病の元凶は精製炭水化物」説

 冒頭で紹介した「ヒューマン・ニュートリション」は「穀物の過剰摂取の害、
特に精製炭水化物による『血糖およびインスリン値の定期的な上昇』が多くの点で健康に有害」と強調しています。
精製炭水化物とは、白いパンや白米などの精製された穀物のことです。未精製のものに比べて、より急激に血糖値を上昇させます。

 インクレチンの特徴からも、穀物を主食とする現代人に糖尿病が多発しDPP-4阻害剤を使わなくてはならないことからも、
穀物を主食とした食事が人類に合っていないことは明らかなのではないでしょうか。

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