<「1日に水2リットル飲むとよい」と言われてきたが、
豪モナシュ大学とメルボルン大学の共同研究プロジェクトは、
この画一的な基準に異を唱える研究結果を明らかにしている>

私たち人間が生命活動を維持するうえで、水は欠かすことのできないもの。
水分摂取量の不足によって、熱中症のほか、脳梗塞や心筋梗塞などの健康障害を引き起こすリスクが高まるといわれている。
厚生労働省では、「健康のため水を飲もう」推進運動を立ち上げ、こまめな水分補給を国民に呼びかけている。

■「1日に約2リットル」が提唱されてきたが

それでは、いったい、一日にどれくらいの水分を摂取すればよいのだろうか。

長年、その目安として"1日にグラス8杯分(約2リットル)"が提唱されてきたが、
豪モナシュ大学とメルボルン大学の共同研究プロジェクトは、
学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」において、
この画一的な基準に異を唱える研究結果を明らかにしている。

共同研究プロジェクトでは、水分を過剰に摂取すると、体内の水分量を適度に維持するべく、
脳の働きによって「嚥下阻害」が生じる仕組みに着目。

被験者に、運動で喉が渇いたときと、
十分に水を飲んだあとでさらに余分に水分を摂るよう促されたときとで、
水を飲み込むのに必要な労力を評価させたところ、後者は前者に比べて3倍の労力を要したという。

さらに、過剰に水を摂取する場合に「嚥下阻害」が存在するのか、
fMRI(機能的磁気共鳴映像装置)を使って被験者の脳を調べたところ、喉が渇いているときに比べて、
過剰に水分を摂取するときのほうが、水を飲み込もうとする直前に、
脳の前頭前野が活性化することがわかった。

■自分の体が発するサインに耳を傾けよ

これは、被験者が指示に従ってなんとか水を飲もうと、
前頭前野が介入して「嚥下阻害」を無視しようとしていることを示すものと考えられている。
つまり、「嚥下阻害」は、体内の水分摂取量を制御するための重要なメカニズムとして機能しているというわけだ。

"過ぎたるは猶及ばざるが如し"----。水分の過剰摂取は、水中毒や低ナトリウム血症を引き起こすおそれがあり、
けいれんや昏睡のほか、重症化すれば死に至ることもある。
共同研究プロジェクトの一員でもあるモナシュ大学のマイケル・ファレル准教授は
「周りからの指示を信じきって必要量をはるかに超える水分を摂取したマラソン選手が死亡するケースも発生している」と述べている。

一日に必要な水分摂取量は、性別や年齢などによって異なるが、適度な水分量を維持するためには、
一日の水の摂取量にノルマを課すよりも、自分の体が発するサインに耳を傾けることが肝要のようだ。

関連ソース画像
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ニューズウィーク日本版
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