多くの人を苦しませている「がん」の治療でまた新たな成果が報告されています。
スタンフォード大学の研究チームは、2つの免疫系刺激物質をマウスの腫瘍に直接注入することで、
その部位だけでなく全身に分散していた腫瘍までをも消滅させることができたと発表しています。

Cancer ‘vaccine’ eliminates tumors in mice | News Center | Stanford Medicine
https://med.stanford.edu/news/all-news/2018/01/cancer-vaccine-eliminates-tumors-in-mice.html

がん治療の際に用いられることが多い「抗がん剤」には副作用が多くみられるため、
一定のリスクが伴うといわれています。
しかし今回、スタンフォード大学の研究チームが開発した方法によると、
2種類のごく少量の薬剤を腫瘍部位に直接注入することで効果的に腫瘍を小さくし、
消滅させることが可能になるとのこと。

この薬剤は、体の免疫系に対して刺激を与える物質などからなっており、
腫瘍学の教授であるRonald Levy博士はその効果について「このアプローチは、
腫瘍特異的な免疫ターゲットを特定する必要性を回避し、
免疫系の大規模な活性化や患者ごとの免疫細胞に応じたカスタマイズを必要としません」と従来の治療法との違いを述べています。
Levy博士は、がん治療のために身体に備わった免疫系を活用する「がん免疫療法」の先駆者で、
悪性リンパ腫の治療に用いられる抗体薬(モノクローナル抗体)である「リツキシマブ」の開発を導いたこともある人物です。


今回用いられた手法は、腫瘍のある部位に2種類の薬剤をそれぞれ100万分の1グラムレベルの分量で注入することで、
特定のガン細胞に作用するT細胞 を活性化させるというもの。
2種の薬剤のうち、一つは「CpGオリゴヌクレオチド」と呼ばれるもので、
T細胞の表面上のOX40と呼ばれる活性化レセプターの発現を増幅するために、他の近くの免疫細胞と共に働くもの。
そしてもう一方は、OX40に結合する抗体であり、T細胞を活性化して癌細胞に対する攻撃を率いさせるために用いられます。
これら2つの薬剤は主要部分に直接注入されるため、その部位にあるT細胞だけが活性化されます。

このアプローチを実験用のマウスで実施したところ、著しい成果が確認されたとのこと。
マウスの体内の2カ所にリンパ腫腫瘍を移植し、2つの薬剤を1つの腫瘍部位を注射したところ、
治療が行われた腫瘍だけでなく、体の別の場所にある第2の未治療の腫瘍でも組織の退行が見られたそうです。
この処置により、90匹中87匹のマウスでがんが治癒したことが確認されています。
また、3匹のマウスではがんが再発しましたが、2回目の治療の後に組織は小さくなったことが確認されているとのこと。
この結果は、乳房、結腸および黒色腫の腫瘍を持つマウスにおいて同様に確認されているそうです。

また、10個ある乳房組織すべてにおいて乳がんを自然発生的に発生させるように遺伝子操作されたマウスも、
この治療に反応したことがわかっています。
そして、最初に起こった腫瘍を治療することで、将来の腫瘍の発生を予防し、
個体の寿命を有意に延長することができることも分かっています。


さらに詳細なデータをとるために、
研究チームは2種類の腫瘍をマウスに移植することによってT細胞の特異性を調査しています。
マウスにはまず、元と同じリンパ腫がん細胞を移植してから、別の場所に大腸癌細胞株を移植。
こうして別の腫瘍細胞を持つ状態にした上で処置を行ったところ、
結腸がんの細胞だけが影響をうけなかったとのこと。
つまり、特定のがん細胞だけを攻撃できる手法であることが確認されたというわけです。
Levy博士はこの結果に対し、「これは非常にターゲット性が高い手法です。
T細胞が認識しているタンパク質を正確に特定することなく、特定の標的を攻撃しています」と語っています。

今後、Levy博士は低悪性度のリンパ腫患者約15人を募って臨床実験を実施する予定とのこと。
これが成功した場合、Levy博士はこの治療が多くの腫瘍タイプにとって有用なものになると考えています。
Levy博士は「免疫系によって攻撃を受けるものである限り、
私たちは潜在的に治療できる腫瘍の種類には限界があるとは思っていません」と述べています。

関連ソース画像
https://i.gzn.jp/img/2018/02/02/cancer-vaccine-eliminate-tumor/levy.jpg

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20180202-cancer-vaccine-eliminate-tumor/