着想も驚くほどではなく、なんとなくやってみようと進めた研究の結果が予想以上で、
しかも一般市民の興味を惹く場合は、運良くトップジャーナルに掲載されることがある。
レビューを通過するにはある程度の幸運が必要だが、加えてシナリオの骨子がしっかりしていることと、
インパクトの高いタイトルをつける必要になる。

今日紹介するドイツ・ボン大学からの論文はまさにそんな例で、
この論文だけを読んだ後は良くレビューを通ったなと思ったが1月11日号のCellに掲載されている。
まずこの決定にタイトル
「Western diet triggers NLRP3-dependent innate immune reprogramming
(欧米型の食事はNLRP3を介して自然免疫をリプログラムする)」は間違いなく影響しているだろう。

おそらく高脂肪高カロリー食と言わずにタイトルにあるようにWestern Dietが編集者の気持ちを動かしたように思う。

もともと、高カロリー、高脂肪食により動脈硬化が起こるが、
このプロセスを一種の炎症として捉えることは普通の話で、新しいことではない。
この研究も、動脈硬化を起こすLdl受容体(Ldlr)が欠損したマウスに、
高脂肪、高カロリーの欧米型(WD)を与え、通常の餌を与えたマウスと、炎症に関わる血液細胞を比べ、
最終的に白血球とマクロファージに分化できる前駆細胞レベルで、
細胞のエピジェネティックな状態が炎症型に変化したことを示している。

自然免疫システムは、感染によりリプログラムされることが知られており、
リプログラム自体は特に驚くほどではないが、高コレステロールが続くと感染と同じことが起こり、
4週間WDをとり続けるだけで、あとは正常食に戻しても遺伝子発現のパターン、
すなわちリプログラムされたエピジェネティックな状態が元に戻らないという結果は確かにインパクトがある。
しかしこの研究では、血液幹細胞から炎症型の白血球が作り続けられることは示せているが、
なぜリプログラムがWDで進むかははっきりしない。

幸い同じ号にやはりオランダ・ナイメーヘン大学のグループが、
コレステロール合成経路が上昇するだけで自然免疫をリプログラムできるという論文を報告しており、
この研究はリプログラムに関するメカニズムを気にせず論文にできたのもラッキーだったと言える。
というか、みんなで申し合わせていたのかもしれない。

両者を合わせたシナリオを私なりにまとめると、WDによりコレステロール合成が高まると、
顆粒球系の前駆細胞の遺伝子発現パターンがリプログラムされ、
WDをやめても炎症型の白血球が作り続けられる。

このリプログラミングにはコレステロール代謝だけでなく、IL-1Rも関わっており、
この経路をブロックすると顆粒球のリプログラムが抑えられる。
また、自然免疫の引き金になるインフラゾームの活性化に関わるNLRP3をノックアウトすると、
WDを摂取しても自然免疫は高まらないことから、コレステロール代謝だけでなく、
独立した炎症の活性化が必要になると解釈できる。

もちろん、この自然免疫のリプログラミングが動脈硬化につながるかどうかは、
これまでの証拠を合わせて結論しているにすぎないが、動脈硬化の原因が炎症だとすると、
引き金に関わるメカニズムが明らかになったことになる。

しかし、これらを治療標的として創薬するかどうか難しいところだろう。

実際には、この2編の論文に加えて、
グルカゴンで血液幹細胞がリプログラムされるという話も掲載されており、
全部読むとなるほどと納得出来る話だが、
やはり「西欧型食事」というタイトルをつけたこの論文が一番読者には効果がある。

個人的には、一旦リプログラムされるともう元に戻らないのかがきになると同時に、
食事の話で腸内細菌叢がまったく触れられもしない点に新鮮さを感じた。

AASJ
http://aasj.jp/news/watch/7928