◆夜の睡眠時間が6時間45分の成人は、医療の助けなしには60代前半までしか生きられない。

◆極端なショートスリーパーの男性は、日常的に夜たっぷり寝ている人に比べて、精子の数が29%少ない(2013年調べ)。

◆5時間未満の睡眠で車を運転すると、事故に遭う確率は通常の4.3倍。その状態で4時間以上運転すると、事故に遭う確率は11.5倍に。

◆睡眠時間が8時間未満のアスリートは疲れやすい。6時間未満だと、疲労に達する時間が10〜30%早まる。

睡眠不足がもたらすさまざまな不利益が実証されているにもかかわらず、先進国の成人の3分の2は、
世界保健機関(WHO)が推奨する「夜8時間睡眠」を確保できていないという。

だが、本日から3日連続でお届けする衝撃のレポートを読めば、今夜の忘年会は早めに切り上げ、
寝床でだらだらスマホをいじるのもやめ、来年こそは1日8時間睡眠を心がけよう──そう誓うはずだ。

〈あなたは睡眠のことを半分もわかっていない〉

マシュー・ウォーカーは「お仕事は何ですか?」という質問を警戒するようになった。
パーティーでこの質問が出れば、ジ・エンドの合図となる。
初対面の相手でも誰でも、彼に絡みついたまま離れなくなるからだ。

飛行機でこの質問が出れば、他の乗客が映画を観たりホラー小説を読んだりしているかたわらで、
乗客や乗務員に1時間にわたる学びの場を提供するはめになる。

「だから、嘘をつくようになりました。自分はイルカの調教師だと言うんです。そのほうがみんなのためだ」

ウォーカーは睡眠科学者だ。もっと詳しく言うと、カリフォルニア大学バークレー校人類睡眠学センターの所長である。
同センターの(おそらく達成不可能な)目標は、睡眠が生涯にわたって人の心身にもたらす影響を、すべて解明することだ。

となれば、彼が切にアドバイスを求められるのも、何ら不思議ではない。
仕事と余暇の境目がますます曖昧になってきている昨今、自分の睡眠に不安を覚えない人など、ほぼ皆無なのだから。

だが、自分の目の下にできた隈をじっと見ながらも、たいていの人は、睡眠のことを半分もわかっていない。

おそらくウォーカーが赤の他人に自分の職業を教えなくなった真の理由も、そこにあるのだろう。
彼は睡眠について語るとき、カモミールティーや熱い風呂あたりを教えて取り繕うなんてことはしない。
そんな気休めを言うくらいでは、とても我慢できないのだ。

〈「睡眠不足病」には国家レベルで対処すべき〉

彼は確信している。現代人は「『睡眠不足病』が大流行している」さなかに生きており、
その影響は人々が想像するよりはるかに深刻だ。そして、この状況を変える唯一の方法は、行政の介入だけだろう、と。

ウォーカーは4年半をかけて、著作『人はなぜ眠るのか』(未邦訳)を書き上げた。
複雑な内容だが必読の書で、睡眠不足がもたらす影響をつまびらかに検証している。


アルツハイマー病やがん、糖尿病、肥満、精神病は、睡眠不足と密接に関係しているという。
そのことを知ったら、誰もが同書で推奨する「1日8時間睡眠」をなんとか確保しようとするだろう
──というのがこの本の狙いだ
(ドナルド・トランプのような人には驚きだろうが、睡眠不足とは、睡眠時間が1日7時間未満のことを指す)。

とはいえ、個人ができることは限られている。
ウォーカーは、おもだった公共機関や政治家の賛同も得たいと考えている。

「睡眠不足で影響を受けない身体の機能など、一つもありません。
睡眠不足はあらゆるところに深刻な影響を及ぼします。なのに、この問題に対処しようという人が誰もいない。
とにかく、すべてを変えなければなりません。職場でも地域社会でも、家庭のなかでも」

そしてこう投げかける。

「睡眠を呼びかける国民保健サービス(英国の公的医療制度)のポスターを見たことなどありますか? 
医師が睡眠薬ではなく睡眠そのものを『処方』したことなどありますか? 
睡眠こそ最も優先すべきものであり、推奨されるべきものです」

睡眠不足は英国経済に、
年間じつに300億ポンド(約4兆5000億円)以上の損害を与えているとウォーカーは言う。
これはGDPの2%に当たる。

「国民保健サービスが、睡眠を義務づけたり、強く推奨する方針を打ち出したりするだけでいいんです。
そうすれば、国民の医療費は半分になりますよ」

COURRiER Japon
https://courrier.jp/news/archives/108303/