脳に電極を埋め込み電気刺激を送ることでPTSDや気分障害を治療する、というまるでSF作品のようなプロジェクトが進行中です。
アメリカの国防高等研究計画局(DARPA)によると、このプロジェクトは臨床試験の段階に入っており、
実際に有効な治療法として確立する可能性も高いと見られています。

AI-controlled brain implants for mood disorders tested in people : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/ai-controlled-brain-implants-for-mood-disorders-tested-in-people-1.23031


2014年、DARPAは脳に埋め込んだ極小チップで電極刺激を与えて心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの治療に役立てるというプロジェクトを発表しました。

2017年11月11日(土)から行われたアメリカ・ワシントン州で行われたSociety for Neuroscienceの学会で、
このプロジェクトが臨床試験の段階に入ったことが発表されました。

上記のような脳深部刺激療法は通常、パーキンソン病の治療に使われますが、これまでの研究では気分障害には効果がないとされていました。
脳の特定部位に一定の刺激を与えると慢性うつ病を軽くすることはできるという結果も示されていますが、
ある研究に携わった90人のうつ患者は、1年にわたって治療を行っても病状の改善が見られなかったとのこと。

しかし、DARPAが支援するカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のプロジェクトでは
、インプラントは精神病の治療に特化した形で開発され、必要な時にだけスイッチが入るように設計されていることから、
これまで失敗してきた取り組みにも成功するかもしれない、と見られています。
UCSFが開発した閉回路の脳インプラントはアルゴリズムを使って気分障害と関連するパターンを自動検知し、
電気刺激を与えることによって脳を健康な状態に戻す仕組みです。

UCSFの脳神経学者Edward Chang氏らは、6人のてんかん患者の脳に電極を埋め込み、
1〜3週間にわたって脳の活動や彼らの気分を観察。ここで得た情報から、
研究者らは脳の活動によって患者の気分をデコードするアルゴリズムを作成しました。
すでに1人の患者に対象して臨床試験を行ったそうですが、あくまで「予備的な」実験だったため詳細は公開されていません。

またDARPAはマサチューセッツ総合病院(MGH)が取りかかる、
PTSDやうつを患う兵士や退役軍人の治療を最終目的する別のプロジェクトも支援しています。

MGHのプロジェクトはUCSFのように人の気分や精神病を検知するのではなく、
「集中や共感が困難」といった複数の気分障害に共通する行動と関連する脳の活動をマッピングするというもの。
そのため、患者が他人の感情の読み取りに失敗したり、
画像や数字の合致に失敗したりといった行動が起こった時に刺激を与えるようインプラントのアルゴリズムが設計されています。
これまでの実験の結果、意志決定や感情に関係する脳の部位に電気刺激を送ることで、
患者のパフォーマンス向上が見られたとのこと。

長期にわたって閉回路の刺激を与えるという今回のアプローチは、
過去の治療法よりもよい結果を生み出すと考える精神科医もいます。
医師の判断ではなく脳信号を読み取るアルゴリズムを使用する点も、これらの治療法が有望であると考えられる一因のようです。
ただし、脳に電気刺激を送るという治療内容には倫理的な問題や、
他の気分を圧倒するほどの過度な幸福感を生み出してしまうのではないか、という懸念もあがっています。

GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20171124-ai-brain-implant-mood-disorders/