活発な星形成が進むスターバースト銀河の心臓部をアルマ望遠鏡で観測したところ、
活発に星を生み出している星間物質の塊が8個並んでいる姿が鮮明にとらえられた。
多種の分子ガスからの放射が見られる塊もあれば、分子の種類がかなり少ないものもあり、個性豊かな様子が明らかになった。

【2017年11月6日 アルマ望遠鏡】

ちょうこくしつ座の方向1100万光年彼方にある銀河NGC 253は活発な星形成活動が見られる「スターバースト銀河」の一つだ。
スターバースト銀河の中では私たちからかなり近く、これまでにも様々な望遠鏡で観測されてきた。

東京大学の安藤亮さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を使ってNGC 253の電波観測を行い、サブミリ波の観測としてはかつてない高分解能と高感度で、
銀河の心臓部に位置する星間物質の分布を鮮明に描き出すことに成功した。そこには活発に星を生み出す星間物質の塊が8個並んでおり、
直径30光年ほどの塊それぞれのスペクトルから、シアン化水素(HCN)やホルムアルデヒド(H2CO)をはじめとする
多種多様な分子や原子からの輝線が見つかった。


画像:(上)ヨーロッパ南天天文台の可視光線・赤外線望遠鏡「VISTA」によるスターバースト銀河「NGC 253」、
(下)アルマ望遠鏡が観測で取得した同銀河中心部のスペクトル。さまざまな分子が放つ電波が隙間なく並んでいることがわかる
http://www.astroarts.co.jp/article/assets/2017/11/9501_ngc253.jpg


輝線を詳しく調べてみると、よく似た塊が並んでいるように見えるにもかかわらず、見つかる分子の数や輝線の強さが塊ごとに大きく異なっていて、
一つ一つの塊が個性豊かなものであることがわかった。たとえばある塊(下図の塊1)では、チオホルムアルデヒド(H2CS)やプロピン(CH3CCH)、
さらには複雑な有機分子の一種である酢酸(CH3COOH)など、検出された分子・原子の種類は19種、輝線の数は37本におよんだ。
しかも、これらの輝線はスペクトル全体を隙間なく埋め尽くしている。
このような“分子の密林”ともいうべき特異な環境が天の川銀河の外で確認されたのは初めてのことだ。

また、一般に星の生まれる分子雲は摂氏マイナス260度以下という非常に低い温度だが、
今回見つかった“分子の密林”内に存在する分子ガスの一種である二酸化硫黄(SO2)ガスは約摂氏マイナス180度と、分子雲としては高温だった。
暖かい分子ガスと豊かな化学組成を示すこの熱い“分子の密林”では、
生まれたばかりの星を取り囲む暖かい分子ガスの雲がたくさん寄り集まっていると考えられる。

対照的に別の塊(下図の塊5)では、スペクトル上の分子輝線はまばらで、分子の種類がかなり少なく複雑な有機分子も見つからなかった。
“分子の密林”と対比させるとすると、この塊は木がまばらな草原地帯、“分子のサバンナ”と言えるような環境だ。
わずか数十光年程度の間隔で隣り合った星間物質の塊が、これほどに個性豊かである様子は、
従来のスターバースト銀河の観測では見ることが不可能だったものである。

画像:(右上)NGC 253の可視光線画像、(右下)アルマ望遠鏡によるNGC 253心臓部の電波強度画像、(左)スペクトル。
塊1(左上)では多種の分子からの輝線がスペクトルを隙間なく埋め尽くす“分子の密林”状態になっており、
塊5(左下)では見つかった分子の種類が少なく輝線がまばらな“分子のサバンナ”ともいえる環境にある
http://www.astroarts.co.jp/article/assets/2017/11/9502_comparison.jpg


アルマ望遠鏡の観測によって明らかにされた、
スターバースト銀河の心臓部に熱い“分子の密林”をはじめ個性豊かな星間物質の塊が共存している様子は、
宇宙全体での星生成の歴史を牽引してきたスターバースト銀河に未だ知られていない複雑な素顔があることを示すものだ。
今後、より多岐にわたる分子輝線の大規模観測を通して、スターバースト銀河に秘められた多様な環境や、
熱い“分子の密林”の正体がより詳細に解明されていくことが期待される。

アストロアーツ
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9494_ngc253