SF映画で見る、生き物のようなソフトマシン開発の重要な手がかりに

東京大学大学院工学系研究科の吉田亮教授と小野田実真大学院生らの研究グループは、
流動性を大きく振動させながらひとりでに液体(ゾル)になったり擬固体(ゲル)になったりする、
アメーバのような液体の創製に世界で初めて成功しました。
将来的には、アメーバの運動機構をはじめ、生命の自律性を考察する糸口になるとともに、生き物のようにしなやかな動きをみせる、
SF映画で描かれてきたような、ソフトマシンの実現につながると期待されます。

生体内で営まれる多様な生命現象は、様々な物質が複雑に相互作用を及ぼし合うことで実現されています。
例えば、アメーバの体内では、アクチンと呼ばれる生体高分子が集合と分散を自ら繰り返し、流動性を絶えず変化させることで運動しています。
このアクチンによるゾル-ゲル振動は、アメーバ運動のみならず癌細胞の転移や免疫細胞の発生、細胞分裂、傷の修復などにも重要です。
しかし、こうした自律挙動の人工再現に成功した例は、その困難さのため、今までほとんど報告されていませんでした。

これに対し、今回研究グループは、人工的に合成された高分子が集合と分散を自ら繰り返す仕組みを考案し、
外部から電気・熱・光などを一切加えることなく、ひとりでにゾル-ゲル振動するアメーバのような高分子溶液の創製に初めて成功しました。

ゾル-ゲル振動の実現にあたっては、ベロウソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)と呼ばれる化学振動反応を引き起こす仕組みを、
ABC型トリブロック共重合体と呼ばれる、特殊な分子配列を持つ高分子に組み込んだことが重要な働きをしました。
生体のエネルギー代謝反応のモデルとしても知られるBZ反応は、金属錯体の酸化還元状態が周期的に振動する反応です。
研究グループは、この金属錯体を高分子に化学修飾し、酸化状態ではゾルに、還元状態ではゲルになるように設計しました。
そして、この高分子をBZ反応条件におくと、分子自身が反応物を代謝しながら、ゾル-ゲル振動がひとりでに生起することが分かりました。

このゾル-ゲル振動は、高分子や反応基質の濃度や温度をコントロールすることで、振動の速さや大きさを自在にコントロールすることができます。
今回の成果は、アクチンによる自律的な生命挙動の一部を、人工的に再現した初めての報告でもあります。

「ゾル-ゲル振動を繰り返す、アメーバのような液体の創製は、我々の大きな目標の1つでした」と吉田教授は話します。
「生命現象の本質を抽出し、それを巧く利用すれば、生き物のような自律性をもつ高度な材料ができることを、我々は証明したのです」と続けます。

「私が、世界で初めてゾル-ゲル振動を観測したあの日の興奮を忘れることはできません」と小野田大学院生は話します。
「この研究を端緒に、我々は動的機能を持つ生体類似材料の研究を活発化させたいと思います」と続けます。

本成果は物質・材料研究機構の上木岳士主任研究員、東京大学物性研究所の柴山充弘教授らとの共同研究により得られたものです。


ゾル-ゲル振動するアメーバのような新物質のイメージ図
合成した高分子を溶かした溶液中がBZ反応を引き起こすことで、
時間軸(奥から手前)に沿ってゾル(緑色、高分子ミセルが分散)になったり
ゲル(橙色、高分子ミセルが集合、連結してネットワーク化)になったりする挙動を初めて実現した。
http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400069342.jpg

東京大学
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/amoeba-like-oscillating-materials-synthesized-in-lab.html