実験に使用した単電子デバイスの構造
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NTTは、トランジスタ内でランダムな方向に動く電子(熱ノイズ)を観測し、一方向に動く電子のみを選り分けて電流を流して電力を発生させる“マクスウェルの悪魔”の実験に成功したと発表した。

マクスウェルの悪魔は、物理学者のジェームズ・クラーク・マクスウェルが思考実験として提案したもので、「個々の電子の動きを観測して、一定の方向に動く電子のみを選び出すことができれば電流を生成できる」とした理論。

通常は、外部電源などを用いずに無秩序な熱ノイズから、電流という秩序性を持った動きを生み出すことは熱力学第二法則から不可能とされており、150年以上議論が続けられてきた。

ただ現在では、マクスウェルの悪魔が電子の動きを観測して、その情報を得るさいにエネルギーが必要であり、これが電流を流す電源としての役割を果たし、熱力学第二法則を満たすということがわかってきた。

これは1bitの情報を得るためには一定の量のエネルギーが必要であり、逆に1bitの情報を持っていることによって最大でその量のエネルギーを生み出せることを意味しており、情報とエネルギーを結びつけた情報熱力学へと発展している。

今回NTTは、ナノスケールのシリコントランジスタからなり、電子1個の精度で操作や検出が行なえる「単電子デバイス」を用いて、熱ノイズから電流を生成することに成功。生成された電流で別のデバイスが駆動することが可能であり、マクスウェルの悪魔の原理を利用した発電が実現できたとしている。

NTTによれば、マクスウェルの悪魔を実現するためには、電子1個の正確な観測が行なえる検出器と、電子を閉じ込めておく箱を正確に開閉できる扉が必要だとしており、同社は電子1つ1つを観測・制御する技術を長年研究してきたという。これらの機能を1つのシリコン単電子デバイスにまとめあげることで、熱運動する電子を選り分けるマクスウェルの悪魔を証明できたとする。

今回得られた知見は、電子デバイスの消費電力の下限や、分子モーターなどの生体中の微少な熱機関におけるエネルギー変換効率と深く関係しているという。分子モーターはマクスウェルの悪魔が活躍しており、熱ノイズのランダムな運動を利用しながら適切なタイミングで動作し、高いエネルギー変換効率を実現していると考えられているという。

今後は電子デバイスにおいても、生体の仕組みを利用した高効率な動作の実現を目指すとしている。

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