「金を敷き詰めろ」。医療法人徳洲会理事長、徳田虎雄(75)が衆院選を戦った時代、虎雄からこんな言葉で有権者に金をまくよう指示されたと元側近が告白する。

 札束が飛び交う選挙区として全国に悪名をとどろかせた奄美群島。ここで虎雄は小選挙区比例代表並立制移行後も含め7度の衆院選を戦い、戦績は4勝3敗。選挙のたび、現金買収などで末端運動員の摘発が繰り返されたが、虎雄の関与が暴かれることはなかった。

 買収を含む汚れた選挙運動を陣頭指揮してきたのは、虎雄の命を受けて東京などから送り込まれた徳洲会グループの幹部たちだったという。

 「最も金を使ったのは、初当選した平成2年だった。この選挙で裏の資金を30億使った」と、金の差配を任された元側近が語る。

 現金は箱に詰めて航空便で送られたほか、虎雄が自分で運ぶこともあった。当時、現地の選対幹部だった地元病院元幹部が語る。

 「空港で理事長(虎雄)を出迎えると、駐車場で札束の入った箱を開けて、○○町に1千万、○○町に1千万と手渡された」

 こうして届いた金は、各地区に配置された幹部らに分配された。当時、奄美で選挙は「第4次産業」とまで言われ、選挙戦中に買収金額がつり上がり、投票当日には1人10万円まで払ったという。「今思うと、皆、感覚がまひしていた」

裏資金は数億円

 こうした買収選挙は、虎雄の後を継いだ次男、徳田毅(たけし)(42)の時代になっても、手法を変えて引き継がれたと複数の関係者が証言する。

 「最後の総力戦になったのは平成21年の総選挙だった。民主党が大勝する選挙で、自民党入りした毅さんにとっては背水の陣だった。百戦錬磨の徳洲会職員たちが現地に乗り込み、期日前投票で約1万票を数億円で買った計算だった」と関係者が明かす。

 どうやって期日前に票を買ったのか。

 「衆院解散の前から選挙区に入り、昼間からパチンコ店にいる若者などに声をかけ、仲間を集めさせて組織を作る。1人5千円で期日前投票に行ってもらうが、取りまとめ役には事前に飲み食いの費用などを別に渡す。そういう組織を何カ所も作った」

 選挙公示後、まとめ役が各地区の選対を訪ね、集めた有権者の名簿を提出し、人数分の現金を受け取ったという。「名前が重複することがあるので、こちらはその都度、パソコンに名前を打ち込んでチェックした。すでに払った人の分は金を出さない」

 21年の衆院選に先立ち、前年にも衆院解散の機運になったため買収組織作りをした結果、経費を2度かけることになり、裏の費用は数億円にのぼったという。

 「こうして期日前に稼いだ票が約1万で、これが結局、対立候補との得票数差とほぼ同じ数字だった」

追及は沙汰やみ

 金で買われた議席。その資金はどこから捻出されたのか。

 徳洲会グループでは今年初め、解雇された元幹部がグループ企業から引き出していた仮払金の残額が問題になったことがあった。

 仮払いされたまま未処理で残った金額は、平成13年時点で約1億7千万円だったが、24年時点には7億8586万円まで膨らんでいた。このうち21年の衆院選当時に引き出されたのが約5億円だった。

 元幹部は、虎雄の親族らとの対立から解雇に追い込まれたが、かつては腹心として選挙戦の陣頭指揮を任される立場だった。

 解雇に先立ち、徳洲会グループの顧問弁護士が元幹部に、仮払金の使途を明かせと詰め寄った。元幹部が、支出の大半は選挙運動の裏資金だったとして明細書を示したところ、追及は沙汰やみになった。