一個人の百年は、ちやうど国家の一年くらゐに当るものだ。
それゆゑに、個人の短い了見をもつて、あまり国家の事を急ぎ立てるのはよくないヨ。
徳川幕府でも、もうとても駄目だと諦めてから、まだ十年も続いたではないか。


人を集めて党を作るのは、一つの私ではないかと、おれは早くより疑つてゐるヨ。
人はみな、さまざまにその長ずるところ、信ずるところを行へばよいのサ。
社会は大きいから、あらゆるものを包容して毫も不都合はない。


おれはモー死にかゝつて、半分耄碌して居るが、世の中の若僧も思ひの外だよ。
来年は戌年だといふから、発句を読んで置いた。これを御覧。 
男らしく 大喧嘩せよ いぬの春


男児世に処する、たゞ誠意正心をもつて現在に応ずるだけの事さ。
あてにもならない後世の歴史が、狂といはうが、賊といはうが、そんな事は構ふものか。
要するに、処世の秘訣は誠の一字だ。


学者になる学問は容易なるも、無学になる学問は困難なり。

勝海舟