「公務員天国」

 フランスは「公務員天国」だ。日本人は「欧米」とひとまとめに考える癖があるが、アメリカとフランスは全く違う。フランスは、前述したように、社会主義的であり、極論すればアメリカよりも中国に近いのだ。

 私は、フランスの国会で仕事をしていたこともあって、国会議員のみならず、国会職員にも友人がいる。彼らの仕事ぶり、生活ぶりを見ていると、「フランスでのんびりと楽しく暮らすには、公務員になるにかぎる」といつも思っていた。

 給料は保障されているし、長いバカンスもある。さらには、様々な保障や特典もある。仕事も融通がきき、人員過剰なので1人、2人私用で欠けても問題は起こらない。私も、よく国会を仲間と抜け出して、近くのカフェーにお茶を飲みに行ったものである。

 また、国会の職員パスを見せれば、商品を割引して売ってくれる店も沢山ある。まさに公務員天国だ。しかも、そのような状態に対して民間から批判が出るわけではない。官尊民卑の国なので、下手にお上を批判するとどのような災いが起こるか分からないからだ。

 さすがに、少しずつだが役人批判は強まっているのだが、「官尊民卑」と言われる日本と比べても、まだまだフランスは役人天国である。

 こうした状況をマクロンは改革しようとした。そこで意気込んで、公務員12万人の削減を打ち出したのである。最大の目的は財政赤字の削減だ。同じ目的で、国民に対しては社会保障費の抑制により、国民負担を増やそうとしてきた。

 日本だったら、増税、たとえば消費税増税は激しい抵抗を呼ぶが、社会保障費の負担増はあまり注目されない。それは、社会保険料が給料から天引きされるからであり、マスコミが保険料率の上昇を大々的に報じないかぎり(ほとんど報じないのが実態である)、国民は気づかない。しかも、医療期間の窓口で3割の自己負担分を支払えば済むので、尚更のことである。
燃料価格に敏感にならざるを得ない生活環境

 しかし、フランスでは医療費はまず全額自分で払う。そして、後日領収書を添えて社会保険庁に書類を出し、還付請求をする。この面倒なプロセスのおかげで、フランス国民は自分たちの社会保障負担がいかに大きいかを実感するのである。そのため、社会保険料の負担増は大きな社会問題となりやすい。

 さらにフランスは国土が広く、公共交通機関が日本ほど発達していない。とくに地方ではそうである。まさに車がなければ生活ができないのである。私もフランスの地方都市、グルノーブルで2年間生活したことがあるが、車のない生活は考えられなかった。

 そういう生活環境なので、ガソリンの値段が1円でも上がると大変である。町内で隣人達と顔を合わせると、「中東危機のせいで、ハイオクで1リットル、○フラン△サンチームだよ。参ったな」というような会話をいつもしていたことを記憶する。つまり、ガソリンの話題が茶飲み話となるくらいに、ガソリン価格は生活に切実な問題なのである。

 地球温暖化対策を決めたパリ協定の推進役がフランスである。環境問題に取組には財源が要る。それを捻出するための燃料税の値上げだ。だが庶民的な感覚では、「大企業優遇する法人税の値下げをしながら、庶民泣かせの燃料税の引き上げとは何事か」という不満となるのである。

 結局、フランス政府は、反政府デモに対応して、来年1月からの燃料税の引き上げを延期することを決めた。これで自体が沈静化するかどうか、現時点では不透明だが、地球温暖化防止を優先課題とするマクロン政権にとっては大きな失敗になったのは間違いない。

 今後マクロン大統領が、今回の異常事態にどう対応するかについて、世界は大いに注目している。なにしろ彼は、ドイツのメルケル首相と並んで、ポピュリズムに対抗する欧州の大黒柱なのだから。(2018/12/05 9:20)

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