・ぬるま湯に慣れ切った国民性は「痛みを伴う」改革を許容できない

フランスのマクロン大統領が最大の危機に瀕している。

 フランス全土に反政府デモの嵐が吹き荒れ、暴徒と化したデモ隊は、破壊活動、放火、略奪を繰り返し、治安部隊と激突している。花の都パリでは、シャンゼリゼ通りにまで瓦礫の山ができ、観光業や外食産業は大きな打撃を受けている。

「マクロン辞任しろ」の声

 G20から帰国したばかりのマクロン大統領はさっそく現場を視察したのだが、「マクロン辞任!」という罵声で迎えられる結果となった。今回のデモは、来年1月に予定されている軽油とガソリンの燃料税の引き上げに対する不満がデモにつながったが、根底にはマクロンが進める「構造改革」に対する不満があり、それが臨界点に達した結果と言うことができよう。

マクロンは、フランスのエリート中のエリートである。パリの政治学院(Sciences-Po)→国立行政学院(ENA)→財務監察官というコースを辿って、ロスチャイルドグループの投資銀行入りした。私もパリ時代に、両校のゼミの講師を勤めたことがあるが、日本で言えば、名門受験校→東大法学部→キャリア公務員試験合格、財務省→一流銀行という経歴である。そこでM&Aなどで辣腕を発揮して、当時のオランド大統領に抜擢されて経済相に任命された。

 そのときに、ルノーと日産の統合を図ろうとしたが、ゴーン会長に拒まれた。しかし、2017年5月の大統領選挙で当選し、国家の頂点に立つと、ゴーンと力関係が逆転した。それが今回のゴーン逮捕劇、つまり日産によるゴーン追放クーデターの伏線になったことは、11月21日の本欄(「知られざる圧力、ゴーンは常にフランスを向いていた」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54734)で説明した通りだ。

 マクロンは、金融界出身だけにフランス産業の活性化、国際競争力の強化を優先課題としている。その点では、安倍首相が進めようとしている改革と方向性は同じである。

 具体的には、まず、日本の「働き方改革」と同様な、解雇しやすくする労働法改正である。フランスは労働組合が強く、極めて社会主義的な国であり、企業がいったん雇った労働者の首を切るのは容易ではない。そこで人員整理ができず、人件費負担が重くなって、フランス企業の国際競争力が低下する。「痛みを伴う」マクロン改革を進めれば、当然のことながら、ぬるま湯に浸かった労働者の反感を買う。

 さらには、法人税を現行の33.3%から段階的に25%まで下げようとしている。仏企業が国際競争に負けないためである。また、start-up、つまりベンチャーなどの起業を支援する諸政策を遂行している。

 以上のような規制緩和政策は、小泉内閣が声高に叫んだ構造改革と同様な政策だが、たとえば解雇が容易になれば労働市場は流動化するが、既得権益を死守しようとする労働者は反発する。いったん与えた権益を剥奪するのは、政治的に大きなリスクを伴う。

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2018.12.5(水)JBpress 舛添 要一 
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54868