2018/7/5 
[FT]米中、エリート層との闘い
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32602770U8A700C1TCR000/
 米国と中国の緊張が今、金融などの市場に様々な影響を与えている。アナリストらが注目するのは、関税や為替操作、
戦略的技術、そして、貿易戦争での勝因、敗因を多く持つのはどちらか、といった点だ。
 しかし、両国の将来の繁栄と安定を考えるとき、もっと重要な問題がある。
エリート富裕層をうまく抑えられるのはどちらか、という問題である。
 米経済学者の故マンサー・オルソンは1982年の著作「国家興亡論」で、文明は富を握る層が政治に影響力を持つようになると
衰退に向かう傾向があると論じた。確かに米中では富を握るエリート層が権力を振るう現象が明らかに起きている。
両国の貧富の差は割と似ている。中国では上位1%の富裕層が富の約30%を押さえ、米国では同1%が42%を握る。…

 中国の腐敗撲滅が共産党の信頼回復につながるのか、あるいは最終的に党を弱体化させてしまうのか、まだ明かではない。
 しかし、米国にはエリートが握る権力に歯止めをかけようとする兆しはない。否定する人もいるだろうが、
米国の事態はむしろ悪化している。ワシントンに投入されるロビー活動費がこの20年で倍増した事実がそれを示している。
 米国の左派にとっての選択肢はカネもうけにいそしむのか、倫理観を重視するかだ。共和党は、自分たちに理念があるのか
問う必要がある。中道は消えていくのではないか。中道が支持を失うに従い、米社会は経済的、政治的に深刻な打撃を受けるだろう。
その結果、米国は、地方の白人が牛耳るファシズムか、都市部のミレニアル世代が推進する社会主義のいずれかを選ばなければ
ならない方向に向かう可能性が高い。…

2018/7/6付 
日欧豪、国際秩序に責任を フランシス・フクヤマ氏
米スタンフォード大シニアフェロー
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO3266355005072018TCR000/
 トランプ米大統領は民主的な選挙を経て就任した。自身の正当性を盾に権力を行使し、邪魔な制度や機関を壊そうとしている。
世界を覆うポピュリズム(大衆迎合主義)に共通する特徴だ。
 トランプ政権は1期4年で終わるのか、それとも2期8年に及ぶのか。前者ならまだ傷が浅くてすみそうだが、後者なら取り返しの
つかない事態になる。米国の変質が決定的になりかねない。
 トランプ氏は世界中を敵に回し、同時多発的な貿易戦争を仕掛けている。米国の信用を損ない、同盟国や友好国との協調関係
にひびを入れる危険な行為だ。…

 米国が世界のリーダーとしての役割を放棄する一方で、中国やロシアなどの独裁国家が台頭し、戦後の国際秩序が危機に
さらされている。私は民主主義や自由経済の未来をなお信じているが、その後退局面に足を踏み入れてしまったのは否定できない。
 カギを握るのは日本や欧州、オーストラリアなどの指導力だ。こうした国・地域が立ち上がり、国際秩序の維持により大きな責任を
果たさなければならない。ナショナリズムに屈することなく、世界の繁栄を支える制度や機関を守り抜いてほしい。
 日本は価値観を共有する同盟国や友好国との関係を強化しながら、自らの国益を追求すべきだ。防衛費を増やし、
自衛力を高める必要もあるのではないか。(談)