◆死刑方法は何がいい? 3つの基準は「失敗しない、 人道的、 他よりまし」

アリゾナ州のガス室。ここで死刑を執行する
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<アメリカの死刑執行方法にはスタンダードな薬物注射、ガス室に加え、新たに「窒素ガス」も選択肢に加わっているが、いったいどれを選ぶべき?>

今から400年以上前、アメリカの記録に残る初めての国家による死刑として、大英帝国の植民地ジェームズタウンがスペインの諜報部隊を火あぶりにしてからというもの、アメリカは死刑囚を殺すのに使用する技術を探しあぐねてきた。
1976年以降の死刑執行件数は1476件に上り(年間0〜98件)、全体の88%が薬物注射によるものだった。
現在も死刑制度をもつのは全米50州のうち31州で、そのうち何州かは死刑執行を一時停止している。

死刑執行方法の改善を目指すオクラホマ州、アラバマ州、ミズーリ州の3つの州は2015年以降、「窒素ガス」を新たな選択肢に加えた。
アメリカでは現在、薬物注射、ガス室(アメリカでは青酸ガス)、絞首が死刑執行の主な方法となっている。

動画:アラバマ州の死刑執行施設。ほとんど誰も見ていない密室で行われる
https://youtu.be/GP6iHU1_LTQ

窒素は空気中の約78%を占める無色、無味、無臭の気体だ。
セラミックスや鉄の製造をはじめ、幅広い産業で使われている。

毒性は低いが、高純度の窒素ガスの中で呼吸すると脳が酸欠状態になり、死に直結する。
実際、窒素ガスによる中毒が原因の労災事故は、毎年多数報告されている。

■従来の方法はすべて欠陥だらけ

だが、死刑のための使用を想定した正式な研究結果はない。
それにもかかわらず支持者らは、窒素ガスを用いれば死刑囚はより早く、安らかに、人道的に死ねる、と主張している。

死刑執行に窒素ガスを使用するには3つの基準をクリアする必要がある。
まず、確実に死ねるか。既存の方法より優れているか。

「残酷で異常な刑罰」を禁じる合衆国憲法修正第8条に違反しないか。
多分、答えはすべて「イエス」だ。

まず第一の点だが、死刑のための使用例はないにせよ、窒素ガスの殺傷能力が極めて高いことは間違いない。
高純度の窒素ガスが充満した室内に入れば、1分以内(あるいは1〜2回の呼吸)で意識を失い、すぐ死にいたるだろう。
死刑囚がなかなか死なずに生き残ってしまう「失敗」の確率は、従来の死刑執行方法よりかなり低いはずだ。

従来の方法より優れているかどうかは、より難しい問題だ。
死刑執行に新たな方法を導入するときは慎重にならなければならない。
過去に導入した方法はどれも、理論上はどんなに優れたものでも現場で使えば欠陥だらけで、死刑囚に耐え難い苦痛を与えてきたからだ。

電気椅子の場合、死刑囚の体が燃え上がったり、何度も電気ショックを与えなければならなかったりした事例がある。
ガス室は12の州が人道的な方法として採用しているが、失敗率が5%に上り、死刑囚が長い間もがき苦しんだり、痙攣を起こした例が報告されている。

死刑執行方法として最も一般的な薬物注射は、失敗率がほかのどの方法よりも高く、7%超になる。
静脈に何度か注射をする必要があるのだが、とくに死刑囚が麻薬常用者や慢性疾患の患者のように何度も注射を繰り返して血管が硬くなっている場合、静脈を見つけるのは極めて難しい。

今年アラバマ州で行われた例では、医師が最後は男性死刑囚の鼠径部に注射針を刺して膀胱を傷つけたあげく、死刑執行期限の午前0時になってしまい中断された。
「死んだほうがましな」激痛だったと、この死刑囚は医師に語ったという。

加えて近年は多くの製薬会社が、医療用の薬物が死刑執行に使われているというイメージを嫌がり、自社製品が刑務所に回らないよう流通を規制し始めている。
薬物注射による死刑執行は物理的に難しくなってきているのだ。

ニューズウィーク 2018年6月7日(木)17時33分
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/post-10330.php

※続きます