公的な場における「萌え表現」の使用を許容するか否かという問題は、ひとたび火がつくと大いに燃え上がる。今年10月上旬、NHKがノーベル賞解説サイトに人気バーチャルYouTuberのキズナアイを起用した件についてもそうだった。

「キズナアイは性的に強調されて描かれている」
 詳細は他の報道に譲るが、まず弁護士の太田啓子氏が自身のツイッターで「NHKノーベル賞解説サイトでこのイラストを使う感覚を疑う」、「女性の体はしばしばこの社会では性的に強調した描写され(ママ)アイキャッチの具にされるがよりによってNHKのサイトでやめて」と主張し、大きな波紋を呼んだ。

また、太田弁護士の発言に刺激を受けた社会学者の千田有紀氏はYahoo! Japanの記事上で、当該のNHKサイト中でのキズナアイの姿が女性の受動的な性別役割分業を象徴するものだと主張。またキズナアイは性的な面を強調して描写されているとも指摘し、NHKの当該サイトの取り上げられ方は好ましくないと論じて注目を集めた。

■萌え表現をめぐり“戦争”勃発中の日本。では台湾は?

 10月末時点でキズナアイはNHKのサイトから削除されていないのだが、類似の議論は過去にもあり、2015年に三重県志摩市の公認萌えキャラ・碧志摩メグが「性的」だと抗議を受けて公認を撤回された。

 また、岐阜県美濃加茂市観光協会のポスターが同様の批判を受けて撤去された例や、東京メトロのキャラクター「駅乃みちか」の萌え化イラストのスカートの描写が修正を余儀なくされた例もある。

 いっぽう、ネット上を中心に、萌え表現を問題視する指摘そのものの妥当性の是非を論じたり、抗議がもたらす表現規制への影響を懸念する声も多い。こちらはこちらで、ときにフェミニスト全体を敵視するような強い言葉が見られがちだ。

 日本において、公的な場における萌え表現の使用については、抗議をおこなう側もそれに再抗議する側も、議論の最前線で戦う人たちはいずれもピリピリしている。フェミニストなりオタクなり、それぞれの側の人たちのアイデンティティの根幹に関わる問題であるだけに、ひとたび「戦争」が始まると収集がつかなくなるのだ。

(中略)

■「性的で不快だ」という声はほとんどない

 ともかく、台湾では日本以上に公共圏において萌え美少女キャラクターがあふれており、社会のユルさの増進に一役買っている。上記では紹介し切れなかったが、台北の繁華街・西門町のイメージキャラである林黙娘ちゃんは台湾の伝統的な神様である媽祖の萌え化美少女キャラだ。もはや日本のオタクカルチャーの単純な模倣ではなく、現地の文化と融合した台湾の独自文化と化している。

 だが、現地ではこれらの萌えキャラについて「性的で不快だ」という批判の声はほとんど出ておらず、普通にかわいいものとして受け入れられている(ちなみに同人業界に対しては、「公共系」のキャラについては18禁表現を自粛するように呼びかけられている)。

■国会議員の38%が女性(日本は14%)

 ここで付言すれば、台湾は東アジアでは有数のフェミニズム先進国で、女性の経営者や管理職も多い。国会議員に相当する立法委員の女性率は38%に達し、国際平均の22%を大きく上回る(なお、日本は13.7%で世界140位である)。国家のトップである総統の蔡英文も女性なら、最大野党・中国国民党の前党首も女性だ。

 1980年代以降の中華圏の都市部では、日本と比べると女性の地位がもともと比較的高いのだが、現在の台湾のフェミニズムに大きな影響を与えてきたのは婦女救援基金会(婦援会)というフェミニスト団体だ。

 彼女らは日本では、慰安婦問題での対日抗議運動で知られている。ただ、そちらが必ずしも活動のメインというわけではなく、DV防止や売春反対運動、東南アジア女性の台湾への人身売買の反対運動などでも活発に動いている(慰安婦問題に抗議しているのも、そもそも彼女らが売春や性搾取それ自体に反対する立場だからだ)。

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