講談社の新しいマンガ投稿サイト「DAYS NEO(https://daysneo.com/)」の仕組みを知ったとき、筆者は「やられた!」と思うのと同時に、同社のマンガ編集者たちのことが、ひとごとながら心配になった。どれだけの人が、この仕組みの意味に気づいているか。そして、そのことがもたらす未来が、どのようなものなのか。これはある意味、編集者にとって非常に残酷な仕組みなのだ。

■編集者を逆指名できる投稿サイトの意味
 集英社の「ジャンプルーキー!」など、出版社自身がマンガ投稿サイトを運営し、デビューへの登竜門にする仕組みは、いまではそれほど珍しくない。そんな中にあって「DAYS NEO」は、投稿者が編集担当者を逆指名できるシステムである点が、大きな特徴になっている。ベータ版オープン時のプレスリリースに書かれた「これからは、漫画家が編集者を選ぶ時代」という一文は、非常に筆者の目を惹くものであった。

 「DAYS NEO」の「編集者一覧」を開くと、「ヤングマガジン」「モーニング」「アフタヌーン」「イブニング」「Kiss」「BELOVE」「コミックDAYS」「月刊少年マガジン」「月刊少年シリウス」の9誌、130人以上の編集者がずらりと並んでいる(※)。そしてよく見ると、名前とプロフィール画像の下に、★マークと数字が記されていることに気づく。

(※注:これは本稿を執筆した6月中旬時点の数字で、9月2日時点では11誌150人に増えている)

 編集者の名前をクリックしてプロフィールページを開くと、編集者が投稿作品に付けたコメントの一覧が表示される。そのコメント一つ一つに「いいね」ボタンが設置されている。つまり★の数字は、一般ユーザーによるコメントへの評価総数であることがわかる。

 要するにこれは、編集者が投稿作品をどれだけ読んで、どれだけコメントを付けたかが、誰でもすぐわかる形で可視化され、さらに、そのコメントが的確なものであるかどうかを一般ユーザーから評価され、その評価もまた可視化されているという、大変恐ろしいシステムなのだ。

 いや、恐ろしいのは当事者である編集者にとっての話で、むしろ投稿する側からすれば、これは当然のことと言っていい。なにしろ「投稿者が編集担当者を逆指名できるシステム」をウリにしているサービスなのだから。どんな編集者なのか、どれだけ熱心に仕事しているのか、そして、どれだけ一般ユーザーから支持されている編集者なのか。逆指名するに足る編集者なのかどうか、客観的に判断可能な指標が示されていてしかるべきだ。つまり「DAYS NEO」は、投稿者とその作品が吟味される投稿サイトであるのと同時に、編集者も吟味される場でもあるわけだ。

■新しい仕組みに熱心な編集者と、そうじゃない編集者が可視化される
 面白いことに、4月2日の正式オープンから本稿執筆時点で数カ月が経過しているが、すでに★が数百を超えている編集者もいれば、いまだ単にアカウントがあるだけで★はおろかコメントすら皆無の編集者もゴロゴロしている。中には、プロフィール文すら空欄のままの編集者もいる。この新しい仕組みに対し、熱心な編集者とそうじゃない編集者がいて、それが誰でも見られる形で世の中に開示されているのだ。

 もしかしたら、コメントも★もゼロという編集者は、持ち込みなど他の既存の手段によってすでに担当作家が大勢いて、新しい手段には手が回らないのかもしれない。ただ、投稿者からすれば、そんな事情は知ったこっちゃない。編集者に当たり外れがあるのは半ば常識だ。編集者に付いた★の数によって、シビアに判断されることになるはずだ。仮に★が少ない編集者から「担当希望」されたとしても、投稿者としては「本当にやる気あるの?」と疑問に感じてしまうことだろう。

 コメントの数も★の数も、一朝一夕には増えない。コツコツ積み重ねていくしかないのだ。いずれ、★やコメントの多い編集者に逆指名が集中し、少ない編集者は投稿者から相手にされず、慌てることになるだろう。評価が可視化されているというのは、そういうことなのだ。そんな未来が容易に予想できてしまったため、冒頭に書いたようなことを思ったのだ。

 ちなみに筆者が「やられた!」と思ったのは、似たような評価システムを構想していたためだ。もちろんアイデアは、アイデアのままでは意味がない。世に送り出されて初めて意味を持つ。これを実際のサービスとして提供を始めた講談社「DAYS NEO」チームと、システム運営担当の未来創造に、心から敬意を表したい。

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