■「ネトゲ依存症は病気」引きこもる人たちをどう救うか

 スマホやオンラインゲームなどのやり過ぎで、日常生活に支障をきたす状況に陥る「ネット・ゲーム依存」について、WHO(世界保健機構)は最近、病気と認定した。

 先月末には、東京都の青少年問題協議会が、スマホの普及やネット上の交流は「生活圏の内省化をもたらし、閉じた世界の中で濃密な関係性を構築して、仲間グループ以外との人間関係のつながりがない」などとして問題視する意見具申を、小池百合子都知事に出している。

 しかし、「そもそも依存症というものに対して誤解がある」と指摘するのは、ネット・ゲーム依存に詳しい、医療法人社団利田会次長の八木眞佐彦(社会福祉士・精神保健福祉士)氏だ。

 八木氏は、法務省東京保護観察所の社会復帰調整官として、心身喪失などの精神症状により重大な他害行為を行った患者の社会復帰支援に携わってきた。現在は、医療法人社団「利田会」で、アルコール、薬物、ギャンブル、ネットゲーム依存などのカウンセリング、グループワーク、保健所などの「ひきこもり家族教室」なども担当している。

 ある家業を経営している父親は、父の望む進路とは全く異なる大学に進学した長男が引きこもりがちになり、ネット・ゲーム依存になった、と相談に来た。

 話を聞くと、父親は息子に「自分の後を継げ」と、息子の意思を無視して迫っていたことがわかった。そこで、八木氏が「むしろゲームに関する雑談に乗ってみてください」とアドバイス。父親が試しに半ば演技で「このキャラいいね」と言ったところ、親子間の会話が増え、息子の引きこもり状態もなくなった。

 息子は、父親に自分の好きな進路を批判された辛さからゲーム依存になり、「なんでこんな不幸な家庭に生まれたんだ」と思っていたが、今では親子関係が良くなり、ゲームを一晩中して引きこもる必要もなくなったのだという。

「依存には多くの場合、いじめや機能不全家族などの心的苦痛(不安や自信のなさ、トラウマなど)が大元にあって、そこから救ってくれている一面もあります。やめ続ける自信がないと言える関係性を持つことこそ回復のプロセスの一場面なのに、周囲の人たちは“根性がない”とか“けしからん”と言ってしまう風潮には危機感すら感じます」

 WHOが病気や障害と認定するのであれば、身体、知的、精神、と同じ枠組みになるはずなのに、依存症の人にだけは、こうした「虐待」行為が正当化されることになる。「頭ごなしにやめさせることありき」で責め続けることが、当事者を孤立させ、重症化につながると、八木氏は説明する。

「当事者にとって、スマホやネットの世界が安全な場として感じられること自体は意味のあることです。ところが、スマホやネットが役に立っているかに耳を傾けることもなく、周囲が一方的に批判することで当事者が孤立して、それまで月に1万円で済んでいた利用料金が3万、4万円と増えていくなど、重症化に追い込んでいることに気づいて頂きたいです」

■父親不在、母親過干渉、ワーカーホリック ネトゲ依存症を生む家庭環境

 日本のネット・ゲーム依存傾向者の人数は、2013年の厚労省の調査によると、約420万人と推計されているから、他人事ではない。八木氏によると、ネット・ゲーム依存症の当事者がいる家庭に共通しているのは、父親不存在、母親過干渉、ワーカーホリックなどの環境が挙げられるという。

「アディクション(依存症)の形成過程というのは、大元の心的苦痛の原因が親かもしれないし、教育環境かもしれない。それを共同歩調で見つけていくことが大事です。〇〇依存症と言う表面化したものを無理やり取り上げるだけでは意味がありません。心の杖が取られると、自殺してしまう危険性もある。慢性の依存症に対する批判は、虐待に他ならないのです」

 これまで引きこもりの長期化・高齢化の背景にあるものとして問題視されてきた親子などの「共依存」関係についても、むしろ八木氏は「共依存があるから生き延びられてきた」と指摘する。

「カプセルで守られているから生きられる人もいる。その殻を外からハンマーで壊すのは、リスクが高すぎる。内側から自然に出てこられるような動機づけを促す励ましが必要です」

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