10月21日(水)朝日新聞東京版夕刊文化面・寄稿 永田和宏(細胞生物学者、歌人)

社会の後衛「学者の国会」守れ  学術会議任命除外問題

超えてはならない一線 総合知で警鐘

日本学術会議の新会員候補のうち、6人が任命を拒否された。このニュースは連日
大きく報道されているが、自分たちには関係のない、学者だけの問題だと、関心を
持っていない人が多いのではないだろうか。

しかし、今回の政府による学術会議人事への介入は、ある意味では戦後最大の
曲がり角になる可能性があり、これを許してしまうと、わが国の今後に、そして私たち
国民一人一人の子や孫といった後継世代に、計り知れない影響を及ぼす恐れがあると、
私は強く感じている。

多くの学界からいっせいに上がった抗議の声明に慌てたように、学術会議のありようを
協議するというプロジェクトが自民党によって組織された。論点のすり替えであるが、
学術会議の存在意義を薄める、あるいは無化しようとする、脅しに近い思惑が
感じられる。

では、国にとって、なぜ学術会議は必要なのだろう。

そもそも学者や研究者の役割とは何なのだろう。

答はすぐに返ってきそうである。理系の場合なら、まだ明らかになっていない現象に
原理を見つけ、病気の原因や治療法を見つけ、新しい技術によって生活の質を
高めてゆく。イノベーションという言葉に代表されるように、世界を前進させ、
開いてゆくミッションを持つのが学者・研究者である。いわば社会の、世界の、
〈前衛〉としての役割がまず求められている。

(続く)